俺は「柳 翔(ヤナギ カケル)」。今は小学6年で卒業まであと3日と迫った日曜日。
ごく普通の小学生の俺が今気になる物・・・いや、気になる奴と言った方が正しいな。
俺の家の隣に10月の下旬に引っ越してきた「神崎 刹那(カンザキ セツナ)」という女だ。
インテリメガネに腰まである茶髪、少し目つきの悪い茶色い目。人を寄せ付けないオーラを出している。
いつも1人で、誰とも話さない。でも成績優秀で英語・中国語・フランス語・ポルトガル語が話せるらしい。
俺は日本語も少し勉強したほうがいいのに・・・
ということで、刹那はすごく気になる。
別に恋をしてる訳では無い。別の意味で気になる・・・。
神崎家が引っ越してきた頃から俺の母さんと刹那の母さんが仲良しになった。
それからというものの、母さんは「刹那ちゃんと遊んであげたら」と言ってばかりだ。
昔から女と遊ぶのが苦手な俺になにをしろと。家でゲームした方がマシ・・・。
でも、母さんには敵わなかった。
そして今日。刹那と遊ぶことになってしまった。
日曜日くらい、ゲームさせてくれよ、母さん。
まっ、こんなわがまま。通じる訳が無い。
俺は家を出て隣の刹那の家の玄関に立った。刹那の家はベージュ色の壁にソーラーパネルを付けた茶色の屋根。
玄関の右には庭に繋がる石の通路があり、その横には花壇がいっぱいある。
神崎の母さんが花に水遣りをしている。相変わらず美人だ。
神崎の母さんはフランスと日本のハーフの父、日本人の母から生まれたと言うことで、クォーターらしい。
目の色が蒼色に少し近い。
(あぁ、俺の母さんとは大違いだ。変えてほしいよ・・・。)
そうしてる間にも神崎の母さん・・・ハルさんが円満の笑顔でこちらに気づいた。
「こんにちは。」
「こんにちは^^刹那ね。ちょっとまってて。」
焦げ茶色の扉を開け、奥へ入っていくハルさん。
手足も細く、くびれも細い。
(綺麗だなぁ・・・)
奥からハルさんの声が少し聞こえた。
『刹那ー、翔君が来てくれたよー』
数秒後、奥からハルさんと刹那が出てきた。
刹那はいつものインテリメガネはかけてなく、少しオシャレをしていた。
俺はつい胸が少しズキッとした。いつもは前髪を長く垂らし、メガネで顔を少し隠していた刹那が、
今日は子供っぽく、長い前髪を猫のヘアピンで横に留めている。
(やっべ・・・・可愛い・・・;)
その姿につい見とれてしまった。
俺の頬が少し赤くなってるのをハルさんが見てクスッと少し笑った。
「刹那ってね、翔君が来るのすごく楽しみにしてたんだよ^^」
「母さん・・・余計な事言わないで・・・。」
相変わらず無表情で刹那は喋る。まるでロボットの様に。
外見だけでなく、中身も少し変えたら可愛くてモテるのに・・・何かなぁ・・・
「じゃ、刹那、楽しんでらっしゃい^^」
刹那が黒いブーツを履くと、ハルさんが見送った。
俺と刹那が家を出てから少し気まずい空気が流れた。
1人っ子の俺は女と遊ぶ縁が無いためか、何していいか分からない。
ふと、刹那がこっちに引っ越して来たからには、この町の事を知ってるかどうかだ。
「なぁ、刹那。」
刹那は無表情の顔を振り向かせ、その茶色い目で俺を見た。
メガネをかけてないせいか、よけいに可愛く見える。
「何。」
「お前、この町の事知ってるか?道とか、店とか。」
刹那は首を左右に振った。
「・・・知らない。」
ポツリと小さく呟いた。
「なら尚更だ。案内してやるよ。」
俺が無邪気に笑っても、刹那は無表情のままだったが、その目は輝いてるように見えた。
まるで、欲しい物が目の前にある小さな子供に様に・・・
俺と刹那は町を歩いた。服屋、コンビニ、公園、色々案内した。
俺が喋りながら歩いている時も、刹那は真剣に俺の話を聞いていた。
といっても、無表情の刹那は何を考えているのかよく分からないけど。
お前って、ホント何考えてるか分からねぇ奴だな。