日曜日、午後のひとときはダマーズの音楽で! 山田磨依ピアノコンサート@渋谷・美竹清花さろん | cookieの雑記帳

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忙しさに追われているうちに、すでに1ヶ月が過ぎてしまいました。
前日のミシェル・ルグランの訃報から立ち直りきれないまま、1月27日日曜日の午後は、山田磨依さんのピアノコンサートを聴きに渋谷・宮益坂にある美竹清花(みたけさやか)さろんに行ってきました。


山田さんの演奏会は昨年の大倉山記念館以来になります。ダマーズの音楽を愛してやまない山田さんが毎年ダマーズの誕生日に行なっているコンサートで、91周年を祝う3回目の今年はオール・ダマーズ・プログラム。世界広しと言えども、こんなコンサートを開催してくれるのは山田さんくらいだと思います。チケットはsold outしており、山田さんの人気が窺えます。




ダマーズファンの自分にとっては神のような演奏会です。日本ではまだあまり知られていないジャン=ミシェル・ダマーズはフランスの現代作曲家ですが、作風はいわゆるゲンダイオンガクではありません。伝統的な書法の中で個性的な響きを追求したその音楽は、室内楽を中心に広く演奏されるようになってきています。惜しくも2013年に85歳で他界されました。
冒頭に書いたミシェル・ルグランより4歳年長で、ともにパリ・コンセルヴァトワールの出身。同時代にフランスで音楽活動をしてきたお二人ですが、いずれもアカデミーのメインストリームからは距離を置いた活動をされており、何かしら接点などはあったのかしら?と興味は尽きないところです。

さて、会場である美竹清花さろんは2016年にオープンしたまだ新しいスペースで、ソロや室内楽のコンサートを中心に行なっている、名前の通りのサロンで、音響にもこだわりがあるとのこと。こぢんまりしていますが、温かみのある、居心地のよい空間です。木目調のスタインウェイが目を引きます。



このコンサートはゲストにハーピストの中村愛(めぐみ)さんを迎えて行われたのですが、山田さんと中村さんはインターネットラジオOTTAVAで水曜日の夜の番組を担当しており、気心の知れた間柄。お二人で結成した、イタリア語で水曜日を意味するMercolediというデュオとしても、今回初めて演奏に臨むことになります。




プログラム前半はピアノ曲のみのステージ。山田さんのCDにも収録されている作品など、1990年代以降の作品を中心に、所々で山田さんがMCを挟みつつ進行しました。
作曲家であると同時に優れたピアニストでもあったダマーズは15歳の時にパリ音楽院の初見演奏の課題で1位(この時、イヴォンヌ・ロリオも1位で、課題曲はメシアンの「ロンドー」だったとのこと)となったほどで、生涯ピアニストとしても活躍しました(フォーレ作品の録音などが有名ですね)。
そんなダマーズの作品から、まずは1990年の『ピアノのためのソナチネ』。ちょっとごつい1953年出版の『ピアノソナタ』(でも聴きやすいです)と違い、軽快で洗練されたダマーズらしい作品。山田さんの代名詞的な曲でもあります。


1967年の『出現』は前半のプログラムの中では古い作品で、いわゆる印象派の影響をより感じるファンタジックな作品。2001年出版の小品『献呈』はタイトルどおり、ジェラール・ムニエに献呈された曲で、BACHやDSCHのように名前に音を当てはめています。続けては軽快な小品の『タランテラ』、そして最晩年である2005年の作品『夜明け』と続きました。ソナチネと似た感じの作品ですね。山田さんの演奏は雰囲気に溺れることなく、きびきびとしており、そんなところがとても好きです。
前半の最後は『序奏とアレグロ』。1992年のロン=ティボー国際コンクールの課題曲として作曲された作品(このときの第1位は野原みどりさん)で、コンクールの名前になっているマルグリット・ロンはダマーズ少年のピアノの才能を高く評価した大ピアニスト(ラヴェルのピアノ協奏曲やクープランの墓などを初演)。タイトルは、ハーピストである母親のミシュリーヌ・カーンが初演したラヴェルの同名の曲を意識したのかしていないのか? 冒頭のハープのグリッサンドを模したような音型を考えると、ばっちり意識していたものと思われます。軽やかかつダイナミックな演奏と相まって、前半の締めくくりにふさわしかったです。

休憩をはさんでの後半は、ハープの中村愛さんが登場。「ダマーズのハープ作品は難しくて緊張する」とのこと。MCでの山田さんとの掛け合いも楽しく、「死人の誕生日を祝うコンサートって...(^_^;)」と笑いを取っていました。
まずはピアノとハープのデュオMercolediによる『記念祭の祝辞』。初めて聴く曲です。元々は2台のピアノのための作品で、ダマーズ自身による編曲。「ハッピーバースデートゥユー」と「フランスの子どもの歌」の変奏からなる、諧謔味溢れるちょっと変わった作品。いわゆる機会音楽だと思いますが、ピアノとハープってちょっと珍しいデュオですよね。




次のハープ・ソロによる1967年の『シシリエンヌ・ヴァリエ』はダマーズのハープ曲の中では比較的知られた作品で、ハーピストの母親の影響もあってか、美しくもなかなか堂々とした一品。私は吉野直子さんの演奏で初めて聴きました。中村愛さんのハープは、甘ったるくならずに、くっきりとした輪郭を持って、ダマーズ作品の世界観を出していました。
プログラム最後はピアノ・ソロによる比較的規模の大きい1957年の『主題と変奏』が演奏されました。主題と13の変奏からなる作品で、演奏時間は20分くらい。ダマーズの個性的な書法が出来上がってきた頃の作品で、技巧的な仕上がりになっています。指がつりそうな早いパッセージも多く、聴いている方はそういうスリリングな感じも楽しいのですが、演奏する方は大変なんだろうなと思います。最後は静かに終わりました。「ダマーズは最後がハッピーに終わる曲が多くて、そういうところも好き」という山田さんの言葉、同意です。

小品から大作まで、ちょっとシニカルな顔も見せるダマーズ作品を軽やかに聴かせてくれたお二人。それにしても集中力とパワーのいるプログラムだなと思います。
満場の拍手に応えてのアンコールもダマーズ作品で、『おとぎ話 -16のピアノ小品-』から『長靴をはいた猫』『白猫』でした。1分くらいのホントに短い可愛らしいピースでした(ダマーズ自身の演奏も配信されています)。

午後のひとときを大好きなダマーズの音楽に包まれて過ごすという、至福の時間でした。
また来年もこんな形で開催されるといいなと思います。