鮎川哲也氏の未完の長編『白樺荘事件』、ついにお目見えしました! | cookieの雑記帳

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興味を持ったことなどを徒然なるままに書き留めていきます。半分は備忘録。音楽(classicからpopsまでなんでも)、美術(絵画、漫画、現代美術なんでも)、文学(主に近現代)、映画(洋画も邦画も)、旅や地理・歴史(戦国以外)も好き。「趣味趣味な人生」がモットーです。

戦後の推理文壇を本格ひとすじの立場で牽引し、2002年に亡くなられた鮎川哲也さん。没後15年の今年、久々の新刊が発売になりました。

比較的マイナーな探偵小説作家の作品や有名作家の拾遺集を刊行してきた論創社の「論創ミステリ叢書」シリーズの一冊としての刊行になります。
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今回の目玉は、何と言っても未完のままになっていた『白樺荘事件』が収録されたのと、そのオリジナルである『白の恐怖』も同時収録になったことです。
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さらに私家版で少部数しか出回らなかった、鮎川氏の未収録短編(掌編)を集めた『夜の演出』を再録し(他の本に収録された作品は除いて)、ファン待望の拾遺集となりました。
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『白樺荘事件』は1959年に刊行された名探偵・星影龍三ものの長編(中編強、長編弱という感じの長さ)『白の恐怖』を納得のいく形に書き直すということで、かなり昔から取り沙汰されていたプロジェクトだったのですが、なかなか進みませんでした。その後1988年から始まった「鮎川哲也と十三の謎」シリーズの一冊として予告されましたが完成せず、そうこうしているうちに鮎川氏は鬼籍に入られ、なんとか刊行への糸口を探っていたようですが実現されませんでした。
オリジナルの『白の恐怖』も、リライトされるという事情から再刊が控えられていたため(もともとは刊行元の桃源社の担当からの心ない一言で本人が再刊に消極的だったとのことです)、こちらも入手困難な状態が続いていました。
今回、出版を計画していた東京創元社が企画を諦めたため、著作権者を通して話が論創社に流れ、今回の出版に至ったとのことです。
『白樺荘事件』は物語の前半部分までで未完。内容的には『白の恐怖』はそのエンディングに位置するとのことで、要するに中抜け状態になってしまっているのですが、現在刊行するならこの形で出すしかなかろうとの判断で出版にこぎつけました(詳細な事象は編者の日下三蔵さんの解題で詳しく触れられています)。
もともと星影モノであった作品は、三番館のバーテンシリーズに変貌を遂げており、完成していれば三番館シリーズ唯一の長編になったわけなので残念でなりません。
鮎川ファンとしては、あるものは全部読みたいと思う気持ちは皆同じであり、そういった意味でこの企画はたいへん有意義なものと考えられます。しかしコアなファンしか対象にしていない本であることも事実です(^_^;)

今後、少年ものも刊行予定とのことで、ほぼ全ての小説作品が比較的容易に読めるようになります。
難関は春陽文庫の超絶プレミア本『夜の疑惑』のみに収録されている「夜の挽歌」くらいになりそうですね(国会図書館で読めばいいのですけどね)。
日下三蔵さんのツイートでは、この辺りの作品の収録も考えたけど...とのこと。

自分が生きているうちの刊行をお待ちしておりますよ。

そんなわけで、久しぶりの鮎川哲也氏の新刊ですので、堪能したいと思います。

なお、論創社から同時刊行予定だった鮎川氏の翻訳作品を集めた『鉄路のオベリスト』は発売日が延びていますが、今のところ9月予定になっています。