大げさなタイトルをお許しあれ。

贔屓にしている人がいる場合、
その人がただ、勝ち進めばいいと
短絡的に思うことが、過去にあった。

例えば、サッカーの試合。

例えば、日本代表とチームと、格下の弱いチームとの
サッカーの試合は見るに耐えられん。
日本チームが、ボールをほとんど支配し、
相手ゴールの前で、ボールを右に左に回し、
シュートチャンスを伺うばかりの試合だ。

こんなん、サッカーですか?
こんな試合、見ていて面白いですか?

やはり、例えば、韓国とのサッカーの試合だ。
お互い、敵対心剥き出しで、国のために闘う。
もう、お互い本気モードだ。
90分が、あっという間に過ぎる。
思わず、手に足に、力がギュッと入ってしまう。
こういう試合が、見ていて面白い。

サッカーはほんの前振りで、
本当は、将棋の話をしたかったのです。

最近、ネットか何かで、
お互いに死力を振り絞って、
素晴らしい盤面を作る、みたいなことを言っていて、
初めは、何のことかよくわからなかったが、
じんわりと来ました。

将棋とて、そうだ。
相手が弱すぎては、将棋にはならんでしょ。
すぐに、終わってしまう。
見るものを、ハラハラドキドキさせるようでなくては、
プロでは、ないでしょ。

プロの棋士2人だけが、盤面に向かい、
将棋の世界に入り込んでいる。
大きなタイトル戦になると、
2日がかりで、将棋を指しているのだ。
しかも、同じ相手と盤面を挟んで、
ずっと向き合っているのだ。
当然、相手の息遣いも聞こえる。
不思議な世界だ。

先日、それらを実感させる対局があった。

8月の24日25日に行われた王位戦第5局の盤面だ。


中終盤、豊島さんが、銀を出たところを、
藤井さんが、それを咎めるように、
9七に桂馬を跳ねて、豊島さんの飛車取りに当てたのだ。

もし、豊島さんの飛車を取られまいと、逃げてしまうと、
豊島さんの銀がただで、藤井さんに取られてしまうのだ。

プロのレベルでは、この手は、豊島さんの相当な
見落としではないか?という声が上がっていた。
単なる、銀損なんて、プロレベルでは、ありえないらしい。

この局面では、豊島さんは、当初の豊島さんの構想通り
銀が前に出て、ぐいぐいと行けるところまで
攻めて行くのではないかと見られていた。

ところが、豊島さんは予定を変更して、
銀を取られても、飛車を取られまいと飛車を逃げたのだった。

プロ棋士である解説者も、この手を見て、
「いやあ、この手は指せないですね。この手は、豊島さんしか
指せないですよ。」

豊島さんは、銀損はするけど、飛車を逃げて、
局面を難しくさせ、逆転をするチャンスを狙っているのでは
ないか、とも解説者は言っていた。
普通は、この手は、指せないと。

この両者の応酬が、盤面を面白くする。

まさに、強いもの同士が作り上げる盤面盤上の世界。
しかも、2人だけの世界なのだ。

片方だけが強くてもダメ、片方だけが弱くてもだめなのだ。
お互いが、死力を尽くし、ギリギリの所までしのぎを削り合うのだ。
そうして、初めて誰も今まで見たこともなかった、
心震える美しい世界が、盤上に広がるのだ。

これからも、また見たことのない美しい世界を
お願いしますよ、
藤井さん、
豊島さん、
頼みましたよ。