中央公論新社

2019年6月 初版発行

307頁

 

文芸誌「小説BOC」の創刊にあたり、8組の作家によって紡がれた「螺旋プロジェクト」の一作

ある“ルール”のもと、古代から未来までの日本を舞台に、ふたつの一族が対立する歴史を描きます

 

時代は昭和初期

1937年、日中戦争から1945年、東京大空襲まで

 

小学6年生の浜野清子は母親譲りの蒼い目をしていることから同級生に妖怪と呼ばれ、のけ者扱いされています

家族と別れ、夜行列車で東北の寺へ学童疎開した清子は、そこで寺の養女である那須野リツという少女に出会います

大きな耳を持ち、野山を駆け巡る粗野なリツは山犬と疎んじられ友だちがいません

太古から対立を繰り返してきた「海」と「山」の血を引く孤独なふたりの少女は互いに一目見ただけで、深く憎悪しあいます

やがて、取り返しのつかない事件が起きリツは加害者、清子は被害者となります

しかし、炭焼き小屋に暮らす老人や寺の女性、清子の母の言葉により、清子とリツは生理的嫌悪は脇に置いて互いを認め、受け入れようと努力を重ねます

 

これまで読んできた作品に描かれてきた「海族」と「山族」の対立ではなく、清子とリツ、個人の対立が、ごく狭い範囲で描かれていて人間関係も覚えやすく読みやすかったです

個人の対立とは別に清子が考えるのが国同士の対立が元で引き起こされる戦争です

東京大空襲によって母を失った清子が逞しく生き抜いていくであろう未来を予測させるラストは哀しくも希望に満ちたものでした

 

タイトルの意味は何でしょう

音からは「恋い恋われ」「乞い乞われ」が連想されましたけど、私が思いつくような単純なものではなく、もっと深い意味があるのでしょう

各章のタイトルが全て『コウ』、漢字は「逅」「恋う」「乞う」「考」などが当てられていて、どれも物語の展開によく合っていました

 

本書にて螺旋プロジェクト8作家による9作を読破

個々の作品に好き嫌いがありましたが興味深いシリーズでした