新潮社

2021年8月 発行

376頁

 

渋沢栄一を口説き、五島慶太と競い、東京に地下鉄を誕生させた男の熱き闘い

資金も経験もゼロ

夢だけを抱いてロンドンから帰国した早川徳次は、誰もが不可能だと嘲笑した地下鉄計画をスタートアップし、財界大物と技術者たちの協力を取り付けていく

だが、そこに東急王国の五島慶太が立ちはだかる

モダン都市の揺籃期を描く、昭和2年のプロジェクトX物語

 

 

早川徳次だけでなく地下鉄工事に関わった現場監督、技術者らの意気込みや葛藤も描かれ、さらに大隈重信、佐藤栄作なども登場

大物政治家、実業家らとの人間ドラマも面白く読ませてもらいました

 

世の中にはもっと光を当てられてしかるべき人が多くいるのですね

 

ラストに門井さんの思いの丈が詰まっています

銀座駅には徳次の胸像が置かれている

あまり人の目を引かぬ場所である

そこに掲げられた説明用の金属板にも『地下鉄の父』という題がついているものの、大きな字ではない

その程度の待遇か、と失望することもできるけれど、それなら道賀竹五郎以下の現場の人々はどうだろう

監督たち、技術者たち、無数の人足たち

彼らは胸像どころか名前すら遺ることがなく、そのことに不満も言わなかった

地中の星はいま、そのほとんどが肉眼で見えない

 

田口トモロヲさんのナレーションと中島みゆきさんの楽曲が脳内で繰り返されました