文春文庫

2015年1月 第1刷

2019年11月 第3刷

293頁

 

髪結い伊三次捕物余話シリーズ第11巻

 

伊三次も四十の声を聞き随分と丸く涙もろくなりました

しかし、女房のお文は相変わらずで、やや短気が玉に瑕ですが気風の好い頼りがいのある姐さんで、伊三次は頭が上がらないものの仲良く暮らしています

 

「あやめ供養」

町医者の母親に変事が起こり容疑者として直次郎の名が浮かび上がります

今は真っ当な暮らしをしているはずの直次郎がそんなことをするはずはないのだが…悩む伊三次でした

 

「赤い花」

突然、弟子の九兵衛に縁談話が持ち上がります

それも先方からの申し込みで、相手は魚問屋の男勝りの末娘と聞いて驚くばかり

 

「赤のまんまに魚そえて」

老舗の若旦那の髪を急に頼まれた伊三次

何やら臭う…その若旦那はとんでもない悪人でした

 

「明日のことは知らず」

通りがかりに見かけ、ほのかに憧れていた女性が亡くなったと聞き信じられないでいる伊与太

一方、大名奉公に出ている不破友之進の娘・茜は後継ぎの若様の世話をしていました

思い悩むことの多い二人が、遠く離れていてもふと互いを想い合う様子が切ないです

 

「やぶ柑子」

伊三次の家の女中・おふさと不破家の中間から岡っ引きになった松助夫婦の暮らす長屋の隣人である浪人夫妻の仕官話の顛末です

戦前に封切りになった時代劇映画「人情紙風船」を踏襲しており最後だけが全く違うのだとか

良い話でした

 

 

「ヘイサラバサラ」

伊三次が客である翁屋の主・八兵衛から持ち込まれた奇怪な相談事

それは、貸家に住んでいた変わり者の店子が亡くなった後、残されていた異国の産であろう物の正体を調べて欲しいというものでした

 

 

 

本書では伊三次とお文の出番が多くて嬉しかったです

「赤のまんまに魚そえて」の最後に伊三次が思うこと

夜が明ければ、伊三次には、また、決まり切った日常が待っている。伊三次は、それがいやではなかった。何事もない日常がありがたいと思う。それは自分が年を取ったせいだろうか。明日も明後日もそうであってほしい。いずれこの身は朽ち果てる命と知っているが、それは明日でも明後日でもない。ずっと先のいつかだ。

 

明日のことはわからない

思いもよらず幸せが訪れたり、突然の災難に遭ったり

宇江佐さんの抱える病気が作品に色濃く反映されているように思われる6編でした