祥伝社

2019年10月 初版第1刷発行

272頁

 

「天地人シリーズ」の「人」

完結編です

 

天羽藩の政が変わる様を見届けるため柘植左京と共に、江戸から母と姉の待つ砂川村に戻った伊吹藤士郎

それまで藩政を意のままに動かしていた執政たちが失脚し、藩主による国造りが始まるのを期待するのですが、理想と現実は大きくかけ離れ、藤士郎、左京、親友の慶吾までが敵味方を焙り出すためのコマに利用されてしまいます

何とかその危機を乗り越えた藤士郎と左京は砂川村で日々を過ごしていましたが、大雨が続いた後の、地震、山崩れという大災害で村は大混乱に

藤士郎も山崩れに巻き込まれて意識不明となってしまいます

ここで活躍するのは姉・美鶴の元夫で武士を捨て医者となって村にきていた今泉宗太郎

美鶴と藤士郎、左京の父・斗十郎の咎により離縁したのですが、美鶴への思いが断ち切れないのと、藤士郎たちの様子を見ていて幼い頃から武士より医師になりたかった思いを強くして家とは絶縁、髪を剃って村に来ていたのです

それより少し前には美鶴に頼まれて藤士郎の元服に際し烏帽子親も務めており、武士として無難に一生を終えるだけのご仁と思われていたのが意外や意外

なかなかに骨のある善人でした

 

物語の核である天羽藩の改革ですが…

藤士郎の思いは遂げられぬまま、懐柔策にて一件落着となります

 

ハードボイルドを期待する読者からは非難轟轟でしょう

でも、これは青春時代小説なのです

元服前の少年が苦難を乗り越え、大きく成長し、剣ではなく人としての強さで道を切り拓いていこうとする姿は清々しく自分は好みでした

天、地では表紙カバーの藤士郎が横顔だったのが本巻ではまっ直ぐ正面を見据えていることからもその変化が窺えます

 

願わくば、その後の藤士郎と領土追放で江戸へ向かったと思われる左京のスピンオフ物語が読みたいです

 

 

天地人の3巻とも、冒頭とラストの数行が素晴らしいです

藤沢周平さんの系譜ですね