消費者心理とマーケティング -店舗の雰囲気No3-
消費者心理とマーケティング -店舗の雰囲気No3- として、店舗の雰囲気が消費行動に与えて影響 (消費者の生理機能)について考えて行きます。
前回は認知な (cognitive) 影響を取り扱いましたので、今回は、消費者の生理機能 (physiology) について取り扱います。そして、最後に、全体を通しての企業のマーケティング戦略への関連について考えます。
消費者の生理機能への影響とは、皆様もご経験されていると思います。
- 大きな音は、顧客を不快にする
- 暑すぎる室温は、顧客を汗ばませる
- レストランの快適な椅子は、顧客のレストラン滞在時間を延ばす
これらの人間としての生理的な反応は下記のことに関連しています。
1. 消費者が買い物を楽しむことができるか
2. どの程度、店舗に滞在するか
心理学的には、これらの生理的な反応は、前回までにお話した、下記のことを通じて、消費者の行動(店舗・商品の評価、店舗滞在時間など)に影響を与えます。
- 感情的な影響
- 認知的な影響
以上が、店舗の雰囲気が消費者の生理機能を通じて消費者行動に与える影響です。今回の話に関しては、実務家の方々の方が実際の経験を通じてよく知っているのではないかと思います。
今回を含め、3回のお話の中で、消費者が、店舗の雰囲気から感情的・認知的・生理機能的な影響を受け、それが消費者のその後の行動につながるという話をしました。
多くの企業(特に大企業)は非常に分業化され、それぞれの業務の担当者が別々にそれぞれの意思決定をしています。
例えば、アパレルの店舗の雰囲気を構成する要素を考えて下さい。
- 店舗のサイズ、外装、内装、店外・内の広告、音楽、室温、接客、商品パッケージ、商品の手触り・色、販売員の制服の色、照明の色、店舗レイアウト、駐車場のサイズなど
上記の要素が全て織り合わさって消費者に与える店舗の雰囲気というものを作り出しています。
多くの企業実態(特に多数店舗を持つ大企業)は、上記の業務の意思決定を別々の担当者が行っています。そのため、全体としての統一性や、顧客に与えたいメッセージというものが曖昧になっていると思います。
心理学の研究から分かっていることは、人間というものは、皆様が思っているほど、入手できる情報を全て考え合わせるような合理的な判断はしていません。
とりあえず店舗に入ってみて、店舗内をできるだけ回り、値段と品質の程度をチェックし、店員から情報を聞き出すなどを、全てのケースについて行うことを消費者はしません。
その商品や店舗に非常に興味があって (high involvement)、しかもその他のもろもろの状況が重なり合って (色々議論のある点ですが、今回は曖昧にさせて下さい)、初めて消費者は上記のような行動をします。
顧客に与えたいメッセージというものが曖昧の場合は、消費者はそこまで面倒なことをする動機が薄れてしまいます(自分の探している店でない、面倒くさいなどの理由)。
私の提案は、前述の店舗雰囲気を構成する要素の全体を管理する部署や担当者を置くことで、改善できるのではないかと思います。
ただし、(組織論などの話になるので深入りはしませんが)多くの企業では、部署を置いただけでは、新しい考えは機能しないケースが多いので、経営トップの理解も当然必要だと思います。
次回に、店舗雰囲気に関する各論として、音や色について行おうと考えていましたが、あまりにも多くを店舗雰囲気にかけることになるので、これらは今後の時間のある時に回すことにしました。
次回は、-テレビCMの効果No1- として、テレビCMの効果を考える際に重要な3つの考えについて取り上げます。テレビCMの効果に関しては、効果を主張する立場 (strong theory) と主張しない (weak theory) があります。それらの紹介を第一回目に行います。
主な参考文献:
Bitner,M.J. (1992). Servicescapes: The impact of physical surroundings on consumers and employees. Journal of Marketing, 56, 57-71.
消費者心理とマーケティング -店舗の雰囲気No2-
消費者心理とマーケティング -店舗の雰囲気No2- として、店舗の雰囲気が消費行動に与えて影響 (店舗の雰囲気が消費行動の判断・評価)について考えて行きます。
前回は感情的な影響を取り扱いましたので、今回は、商品・サービス・価格などの情報を基にした消費者の判断・評価 (cognitive process) を扱います。
(1)認知的な影響
消費者がどのようにして、商品・サービスを認知・評価するかについての認知心理学 (Cognitive Psychology) の考えを簡単に振り返ります。
認知心理学は1960年以降に心理学の主流となった考え方です。
それ以前は、(1)外部情報を受けて、(2)人間がそれを認知・評価して、(3)行動を起こすという一連の中で、(2)をブラックボックスにして、(1)と(3)の解明に力を注ぐことが主流でした。
認知心理学はそのブラックボックスであった人間の心の中身の研究に主眼を置いています。
エッセンスを本当に簡単に言うと、(1)人間が外部情報(広告など)の中のほんの一部の部分を知覚し、(2)その知覚された情報は消費者の(特に短期)記憶に留められます。(3)しかし、たいていの情報はそれ以上の過程には進みません。
新たに外部情報が入ってきた場合は、先ほどと同様、ほんの一部の情報のみが知覚され、(4)一部の自分の興味に沿うもの(High involvement)のみ、上記の記憶の中から情報を取り出されたり、(5)外部の情報源(広告、口コミ、その他)からの情報を探索します。(6)それで、最終的に購買意図の判断をします。
ポイントは、消費者に与えられたほとんどの情報は知覚・処理されず、ほんの一部の情報しか情報処理されないということです。また取り出される記憶の中身は常に一定ではなく、非常に変化しやすく、しかも都合の良い記憶のみが取り出されることも多々あります。
ここで、本題の店舗の雰囲気との関係の話に戻ります。
ポイントは、店舗の雰囲気の知覚(例、ポジティブ、ネガティブ、高級店)によって、その後の同じ情報に対する消費者の下記の情報処理の過程が大きく変わることです (Lam, 2001)
- 情報への注意
- 情報の知覚
- 内部(記憶など)・外部(広告など)の情報検索
- 上記の取得した情報の処理
- 商品などの評価
事例1.
外資系の投資銀行・証券会社の内部の雰囲気は国内系競合の雰囲気とは別のものがあります。非常にハイクオリティーです。大手監査法人、コンサルティングファームなども同じようなコンセプトです。これらの雰囲気によって、彼らのコメント一つ一つが、仮に中小の同業者と同じことを言っていても、より専門性を感じさせるのです。
例えば、まったく外資コンサルティングファームを知らないある地方の企業家が、友人の紹介でその外資コンサルティングファームを訪問するとします。
(1)まずオフィスに入った段階で、先方の事務所の雰囲気を見て、実際どうかはともかく、今までの先方の事業の成功を想像すると思います。
(2)そうなると、先方のプレゼンをより興味を持って聞くかもしれません。
(3)すると、以前、このコンサルタントをテレビでちらっと見たことがあることを思い出すかもしれません。また、プレゼンしている内容(例、消費者行動について)に関する本を本屋で立ち読みしたことを思い出すかもしれません。
(4)前述の先入観がある場合は、その本に成功事例が載っていたことを、特に強く思い出す可能性が高いです。(実際は、その本には成功事例と共に失敗事例も載っていても・・・)
(5)すると、先方のプレゼン内容を自社に当てはめると成功する気がより強くすることとなります。
事例2.
初めてその店に行った時、商品を使用する時などは、消費者は自分の過去の使用経験がないため、外部の手がかりをその商品や店舗の品質を評価する際の手がかりにつかいます。
そのため、雰囲気の良い店舗では、それだけ消費者の期待する品質が高くなります。
消費者は、合理的に様々にその場で入手する情報を基に判断・評価しているつもりでも、人間の判断・評価は先入観などによるバイアスが入り易いものです。
事例3.
消費者は、店舗の雰囲気を基に、その店舗のカテゴリー化をします (Ward, Bitner, & Barners, 1992)。
例えば、車を運転していて、ある店舗(例、アパレル)を見つけて駐車場に入ったとします。駐車場からの眺めもしくは一歩店舗に足を入れた段階で、その店舗が高級店なのか安価な製品を販売しているかを判断します。
その時のポイントは、その店舗の雰囲気(外装・内装・サービスなど)が高級店もしくはディスカウンター、どちらの典型的なパターンを示しているかです。
仮に本当は、高級は服を販売しているが、外装など雰囲気がそのような典型パターンとは異なる場合は、消費者は駐車場からは、高級品を売っているように判断しません。仮に店舗内に入って来てくれても、その後の商品を評価する過程でも、何かとネガティブな情報がより多く頭に浮かんで来ます。
仮に外装など雰囲気が典型的な高級店のものだと、消費者は店舗内でも上記ほどはネガティブにそれぞれの情報を捉えないし、逆に良い情報が頭に浮かんで来やすくなり、良い面(サービスなど)が見えてきます。
なお、認知心理学の説明の部分は、ほんのエッセンスで、しかも専門用語を抜かしながら書きましたので、専門家やより情報が欲しい方には、不十分かつ誤解を招く可能性のある書き方になっています。よって、より正確な情報が必要な方は専門書にお当たりください。この部分は、海外の消費者行動論のちゃんとした教科書ならほとんどの本に書いてあります。
参考書(例)
Solomon,M., Bamossy,G., & Askegaard,S. (1999). Consumer behaviour a European perspective.
次回は、-店舗の雰囲気No3- として、店舗の雰囲気が消費行動に与えて影響 (消費者生理) について扱います。
主な参考文献:
Lam,S.Y. (2001). The effects of store environment on shopping behaviors; A critical review. Advances in Consumer Research, 28, 190-197.
Hui,M.K., Dube,L., & Chebat,,J.C. (1997). The impact of music on consumer’s reaction to waiting for services. Journal of retailing, 73, 87-104.
Ward,J.C., Bitner,M.J., & Barners,J. (1992). Measuring the prototypically and meaning of retail environments. Journal of retailing, 68, 194-220.
回答No1 - 無名ブランドを高価格で売る方法?-
回答No1 - 無名ブランドを高く売る方法?-
アルマーニのように、値段が高いのに着てみたいと思わせるには、どのような戦略が必要なのですか?下記の非常に面白い質問を頂いたので回答させていただきます。
■高い値段のものを、客が無理しても買いたいとおもわせるには?
とても興味深い話です。実際、そのとおりのことも経験したので、真さんの話に説得力がありました。例えば、店内改装して、明るいトーンにしたところ、売り上げが上がったり、プロモーションの内容によって成功するのと、しない例があったり、どんなにあとの条件を満たしていても、ロケーションの悪さで,知名度が上がらなかったりなど。アルマーニのように、値段が高いのに着てみたいと思わせるには、どのような戦略が必要なのですか?
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非常に難しい質問ですね。
アルマーニなどは非常に長い歴史をかけてブランド力を作ってきました。そのため、直ぐに新しいブランドをアルマーニのように高価格で販売できるようにするのは難しいかもしれませんが、下記のことが必要なのでは。
(1)品質自体の高さ
恐らく初回の買い物をしてもらうことは、他の施策でも可能ですが、消費者は実際の自分の購入前の期待水準と実際の購入後の満足度を比較して、その商品の満足度が決定されます。よって高価格で売ったは良いものの、その使用時に満足できないのではあれば、ネガティンブな口コミ等が発生して最終的には失敗すると思います。
(2)店の雰囲気
消費者は、良く知らないブランドを見た際に、店の雰囲気(内装・外装・音楽・サービス水準、ロケーションなど含む)を一つの判断材料にして、店のカテゴリーを判断します。つまり、ハイストリートやデパートの高級店の中にあって高級な雰囲気を醸し出している店は良く知らなくても高級な店だと知覚するし、駅前の商店街の中にあれば高級でないと判断します。外装も同様で、ディスカウンターの典型的な外装の場合は、仮に高級な内装などがあっても高級とは判断せず、高級品を買いに来た顧客は店に入ってきません。私の住んでいるイギリスのある街には、商品が高いけど、外装及び内装に力を入れていない店がよくありますが(予算の問題かもしれませんが)、そのような店は昔から知っている場合を除いて、店舗に入る可能性は低いと思います。イギリス(私の住んでいる町のことですが)で言えば、マーク & スペンサーの食品売り場は非常に高級な雰囲気を醸し出していると思います。よって奮発したい時は、たまに買い物をしますが、マーク & スペンサーの洋服売り場は内装が非常に良くないと思いますので、そこでは買いません(年齢層が合わないのも理由ですが)。
(3)値段
私のブログでも述べましたが、値段も消費者の知覚する品質を決定する大きな要素です。よってただ値段を下げれば売れるという単純なものではありません。むしろ高級品は値段を高く保つことで消費者の期待する(知覚)品質を高くできます。
(4)店舗内のロケーション
私のブログでも述べましたが、消費者はカテゴリー内の内部参照価格と比較して割安感を決定します。よって売りたい商品を、誰が見ても高級品と呼べる商品(ブランド品)のコーナーに置くことで、その売りたい(無名)の商品に関しても、消費者に ”私は知らないブランドだけどおそらく有名なブランドなんだな “ と知覚させることができます。その中で多少の割安感がその他の有名ブランドと比べてあれば、消費者は割安にも感じると思います。
消費者心理とマーケティング -消費者の気分(ムード)-
消費者心理とマーケティング -消費者の気分(ムード)- として、消費者の気分が消費行動に与えて影響について考えて行きます。
心理学の過去の研究から、人間のその時の気分というものは、人間の行動に大きな影響を与えることが分かっています。
(1)気分は消費者の行動に直接的な影響と間接的な影響を与えます。
直接的な影響とは、過去の経験上、良い結果をもたらされた行動を行い、悪い結果をもたらされた行動を慎むという傾向です(オペラント条件付け;Operant conditioning)。つまり過去の学習から得られた行動に気分は直接結びつくということです。
オペラント条件付けの例として、数年前(日経平均が8,000円台の頃)に株式投資を始めた人は、大幅な株価上昇という経験(学習)しているので、今後も(一時的なボーナスが入った場合など)株式投資を行いやすいが、最近(今年の4月頃)株式投資を始めた人は、急激な下落を経験(学習)しているので、今後、一時的なボーナスが入った場合などには株式投資に二の足を踏むということです。
また、ある色のスーツを来た時に繰り返し商談で失敗をし、そのスーツを商談時に着なくなるというのもオペラント条件付けです。
間接的な影響とは、消費者の気分の状態は、消費者の商品などに対する期待、実際の評価など(cognitive process)にも影響を与えるということです。良い気分の際は、悪い気分の際に比べて、同じ商品に対しても、より良い評価を下す傾向があることが言われています。
テレビCMに高感度が高く、良く見かけるタレントを使用することもその一例です。そのようなタレントの登場によって、消費者により良く、宣伝している商品を評価してもらおうという試みです。(広告に関しては今後扱います)
また店舗の雰囲気や店舗で流れている音楽、店舗の内装・外装の色などが消費者行動に影響を与えるのも、同じ論理です。ちなみに音楽によって顧客の店舗での滞留時間などは明らかに変わります。(この点に関しては、次回扱います)
(2)以降は、気分の良いケースと悪いケースについて考えて行きます。
基本的な考え方として、人間は気分が良いときはその良い気分を持続させたく、気分の悪いときは、その悪い気分を改善させたい(忘れたい)という性質を持っています。その人間の本源的な性質が消費者としての行動にも出てきます。
気分が良い (positive mood) 場合の研究結果はたいてい一致しています。
消費者は良い気分を自分にもたらすと期待できる行動を行います。
- 自己の存在価値を高める行為 (他人から認められたい)
- 自分の目標に近づける行為 (挑戦心が芽生える)
- リスクの高い行為への挑戦 (ハイリスクに関しても、思わず挑戦)
- 他人に対する親切な行為 (寄付、他人へのギフトなど)
- 他人とのふれあい、チームスポーツへの参加、友人との外出
大和総研の吉野アナリストがワールドカップの日本代表の試合の結果のサプライズと翌日の日経平均の騰落率の関係をコメントしていました(週刊朝日6月9日号)。サプライズのある勝利の翌日の株価は上がっているようです。これは、日本代表が思いがけなく勝ったことが、投資家の気分の高揚につながり、心の中にあった(1)株で儲けて自分の能力をアピールしたい、(2)株で儲けて *** を買いたいなどの欲求が表面化し、リスクへの態度も緩和することで、株式市場で投資する投資家が増えたからだと思います。
気分が悪い (negative mood) 場合の研究結果は一定していません。
ただし、気分を改善させる行為を行いたいという人間の本源的な欲求があることは事実です。
ここでは一部の見解を紹介します。
(1)衝動買いは消費者の気分の状態と関係があるという見解があります。
気分が悪い消費者がネガティブな気分の状況から脱するために、衝動買いをするという論理です。衝動買いは、物自体を購入するのではなく、買い物から得られる楽しみ・気分の高揚を購入するという一面があります。よって買い物による気分の高揚によってネガティブな気分を一時的に改善するのでしょう。(衝動買いについてはいずれ取り扱います)
(2)他人との交流よりも、自己完結する行為(読書、音楽を聴く、テレビを見る)をする傾向がある。
いやな気分のことを思い出さない行為をする傾向があります。
(3)中には、外出し、ネガティブな気分を忘れることができる行為(ショッピング、映画鑑賞など)を行うケースもあります。
(4)環境を変える行為も好みます。
新しい刺激を売ることでネガティブな気分を忘れる。
まとめとしましては、消費者の気分の状況は明らかに、直接的または間接的に消費者行動に影響を与えます。
通常の場合は、気分が良いほうが、より良い商品等の評価が得られるなどのメリットが得られるため好ましいと考えられます。
小売業の場合は、店舗の顧客を如何に気分良くさせるかによって結果が明らかに変わると思われます。些細なことで消費者の心理は変わりますので、改善の余地は大きいのではないでしょうか。
ここに関わる消費者心理学の研究は次回扱います。
また、メーカーの場合も、広告宣伝の方法などの行かせるのではないでしょうか。(既にかなり取り入れられていますが)
また商品開発へはまだ、充分生かせると思います。
キーワードは、ポジティブな消費者は、リスクを取り新しいことに挑戦することです。
ただし、気分の悪い消費者も衝動買いなどの例のように潜在顧客として充分魅力的です。
メーカーなどの商品開発にも十分生かせます。ネガティブな消費者はネガティブな気分を忘れたがっています。
ただし、注意すべきことは、ネガティブな気分の人は、同じ情報でも、よりネガティブに反応・評価しますので、気をつけるべきです。さもなければ、ネガティブな口コミなどに発展しかねません。
次回は、店舗の雰囲気が消費者行動に与える影響を扱います。
主な参考文献:
Kacen,J.J. (1994). Phenomenological insights in mood and mood related consumer behaviors. Advances in Consumer Research, 21, 519-525.
Ronald,J.F., & Christenson,G.A. (1996). In the mood to buy: Differences in the mood states experienced by compulsive buyers and other consumers. Psychology and Marketing, 13, 803-819.
消費者心理とマーケティング -小売業価格戦略No4-
消費者心理とマーケティング -小売業価格戦略No4- として、価格と消費者の品質の知覚の関係を前回から少し掘り下げたいと思います。
今回は、購入する際のリスク / 店舗(企業)イメージと価格の関係を考えます。前回(小売業価格戦略No3)のおさらいをすると、
小売業は(1)消費者の該当商品の購入する際のリスク(値段、商品が消費者のアイデンティーに与える影響が大きいか、身体等に与える影響など)を考慮して、PBに向く商品か、NBに向く商品かを検討する必要があることと、(2)自社の店舗イメージを考慮して、PBに向く商品か、NBに向く商品かを検討する必要があるということでした。
それでは、企業イメージの低い企業が購入する際のリスクの高い商品と低い商品をPB(プライベートブランド;小売業者のブランド)化する場合では、どちらが成功の可能性が高いでしょうか?
このような組み合わせなどに注目した研究が2003年に発表されています。
この研究では、企業イメージの低い企業としてWal-Mart (ディスカウンターのため)を取り上げ、ジーンズを購入リスクの高い商品(アパレルは多くの人にとって自らのアイデンティーを表すものため)、歯磨き粉をリスクの低い商品(歯磨き粉にこだわる人は少ない、Low involvement )として取り上げました。
研究によると、ジーンズに関しては、消費者はディスカウント価格を表示した場合の方が、それ以上の価格(消費者の期待する価格及びプレミアム価格)を表示した場合よりも、同一のジーンズに対して低い品質として知覚しました。一方、歯磨き粉に関しては、表示価格によらず、全ての価格帯で同一の品質を消費者は知覚しました。
つまり、消費者は購入リスクの高い商品の方が、より価格を期待する品質の手がかりとして使っているということになります。そして、調査では購入リスクの高い商品に関して、消費者はディスカウント価格やプレミアム価格でそのジーンズを購入するよりも、消費者の期待する価格 (expected price;内部参照価格 internal reference priceのこと:小売業価格戦略No1 or 2 を参照して下さい) で購入する方をより好みました。
高企業イメージの調査では、仮想の高イメージ企業が使用されました。この企業はステータスシンボルになる商品やファッションを扱っている企業です。そして商品は購入リスクの高い商品(Personal CD player など;自らのアイデンティーを表すものため)を扱いました。
価格と知覚品質の関係では、価格が上がるにつれ、消費者は商品品質を高く知覚しました。つまり、価格を期待する品質の手がかりとして使っているということです。ただし、購買したいかどうかの態度に関しては、ディスカウント価格のケースと消費者の期待する価格 (expected price) のケースでは同等で、プレミアム価格のケースよりも高くなりました。
以上の議論と前回の議論を踏まえて考えると、下記のことを言えるのではないかと私は考えています。
企業イメージの低い企業 (ディスカウンター)に関しては、
(1)日用雑貨などの購入リスクの低い商品に関しては、消費者は値段を上げただけでは、品質が高いと知覚しない。よってPBをディスカウント戦略で提供するのが良いのではないか。
(2)液晶テレビ(高額品)、薬などの購入リスクの高い商品に関しては、価格を期待する品質の手がかりとして使っています。(ブランド名も品質の手がかりとして使っていると思います)ということは、むやみにディスカウントのPB商品を導入すべきではないと思われます。おそらく従来どおりのNBか、利益増大を図るのならば利幅の厚いPBを消費者が期待する価格で提供すべきです。その際は、小売業価格戦略No1 でお話したように、消費者の期待する価格はNB及びPBでは異なることに留意すべきです。
企業イメージの高い企業 (ステータスシンボルになる商品やファッションを扱っている企業)に関しては、
(1)購入リスクの高い商品に関しては、価格を期待する品質の手がかりとして使っています。むやみにディスカウントのPB商品を導入すると品質を相対的に低く見られます。ただし、高イメージの企業イメージがあるため、仮にディスカウントで販売しても、プレミアム価格の商品よりは好まれます。ただし、そのような短期的な売り上げ増を求めすぎると将来のブランド価値の下落の危険が高まりますが・・・。私は消費者の期待価格でのNB及びPBの販売が好ましいと思います。
次回以降は消費者の気分(Mood)や店舗の雰囲気が消費者の行動(品質の知覚や購買意図)に与える影響についてです。
主な参考文献:
Sheinin,D.A., & Wagner,J. (2003). Pricing store brands across categories and retailers. Journal of Product and Brand Management, 12, 201-219.
小売業価格戦略 No3
小売業価格戦略No3 として、価格と消費者の品質の知覚の関係について取り上げます。
最初の論点は、店舗(企業)イメージとPB(プライベートブランド;小売業者のブランド)及びNB(ナショナルブランド;製造メーカーのブランド)の値上げ効果の関係商品です。
(証券)アナリスト時代に感じていたのは、小売業の一般的な成長パターンとは、最初は小規模ゆえの利点である人件費や間接費の低さを生かしたディスカウンターとして市場シェアを伸ばし、いったん壁(規模の拡大による諸コストの増大や競争の激化)にぶつかると、PB 導入比率を次第に高めることで粗利益率の増大を図って利益の成長をするというパターンです。
慎重に導入を図る企業をあった一方で、アナリスト説明会などで、PBの比率を増やす(たいていの会社はPB比率という具体的な数字を言います)のでとにかく利益が伸びるので信じてくれと言われ、実際は期待を裏切られたケース(想定通りPBが売れなかった)もありました。
それでは、どのような商品のPB化が成功し、どのような商品がうまくいかないのでしょうか?
一般的には、使用経験などが充分ない状況下では、消費者は価格を期待する品質の手がかりとして使います。すなわち、値段が高いものは品質も良いだろうという期待です。
更に掘り下げて考えると、(1)購入する際のリスク(Category risk; 出費、友人などに認められない、期待はずれの実際の品質など)と(2)店舗(企業)イメージを考慮する必要があります。
(1)購入する際のリスクが高い場合は、消費者はリスク回避的な行動(より多くの情報を集める、ブランドの名が通っているもの(NB)など)を選択するなど)を取りやすくなります。そのため、高品質という一般的なイメージのあるNBを購入する傾向があります。例えば、通常はPBの商品を買っていても、子供に薬を買うケースはNBを使うケースはその例です。
(2)店舗(企業)イメージは期待する品質の手がかりとして使われます。店舗(企業)イメージが低い企業(ディスカウンターなど)がディスカウント価格戦略をPBに使用する際は、元から期待される品質レベルが相対的に低いため、ある程度の使用時の品質レベルでも消費者は満足します。
しかし、ディスカウンターがプレミアム戦略をPBに対してとる場合は、品質が低いという先入観が邪魔をしてしまい、仮に品質が良くても、その品質の知覚をしにくくなっています。
一方、店舗(企業)イメージが高いケース(ブランド品店など)は上記の先入観の邪魔はありません。そのため、実際の高い品質がそのまま消費者に素直に近くされやすい傾向があります。しかし、店舗(企業)イメージが高い店舗がプレミアム戦略をとる場合は、PBがNBに対して相対的に品質が低いという先入観がより鮮明になる傾向があります。
今回の内容から言えることは、小売業は(1)消費者の該当商品の購入する際のリスク(値段、商品が消費者のアイデンティーに与える影響が大きいか、身体等に与える影響など)を考慮して、PBに向く商品か、NBに向く商品かを検討する必要があることと、(2)自社の店舗イメージを考慮して、PBに向く商品か、NBに向く商品かを検討する必要があります。
ただし、一般論として、今日の所は、PBはどちらかというとディスカウント戦略に向いているとします。
次回は今回の、購入する際のリスクと店舗(企業)イメージと価格の関係をもう少し詳細に検討します。
例、高リスク商品を高イメージ企業がPBとして販売するケースなど
主な参考文献:
Aaker,D.A. (1996). Building strong brand, Free press,
* Sited in Sheinin,D.A., & Wagner,J. 2003
Grewal,D., Baker,J., Krishnan,R., Borin,N. (1998). The effect of store name, brand name and price discounts on conumsers’ evaluation and purchase intentions. Journal of Retailing, 174. 331-352.
Sheinin,D.A., & Wagner,J. (2003). Pricing store brands across categories and retailers. Journal of Product and Brand Management, 12, 201-219.
小売業価格戦略 No2
皆さんこんにちは。
今回は第一回目の続きで、小売業の価格戦略No2です。
小売業の価格戦略No1 でお話したように、プロモーション境界点 (promotion thresholds) についてです。
前回の続きですが、なぜ日本マクドナルドは初めの低価格バーガー導入で大成功したけど、その後の値下げで苦戦したのでしょうか?
その鍵は、プロモーション境界点 (promotion thresholds) にあります。
プロモーション境界点とは、価格の変化(値上げ、値下げ)が消費者に魅力的(非魅力的)に映る最低限の程度のことです。この臨界点を超えない価格変化は、消費者の消費行動にたいした影響を与えません。
つまり、値下げ戦略は消費者が知覚できる程度の大きさがなければ、たいした購入人数増には結びつかないということです。恐らく、初めの日本マクドナルドの大幅な値引きは、プロモーション境界点を大きく超えて、消費者には非常にお得と映ったのでしょうが、その後の小幅な値下げは、境界点を超えず、消費者に安くなったと感じられなかったのではないでしょうか。
ポイントは、絶対額(例、90円 versus 100円)ではなく値引率(例、5% versus 15%)です。100円から95円に値下げになった場合よりも、115円から100円に下がったハンバーガーの方が購入人数増につながるという論理です。
プロモーション境界点の程度は個々の消費者によって異なります。つまり、ある消費者は小さな程度の価格変化に反応するが、ある消費者は大きな価格変化の程度でなければ反応しないということです。
ある調査によると、小さな程度の価格変化に反応する消費者は、(1)価格に基づいて購買を行う消費者 (higher prone consumers、つまり安い商品を主に選択する消費者)、(2)ストアロイヤルティーが低い消費者、(3)低所得者、(4)高齢者、(5)相対的に低い就業率などが例示されています。
それでは、前回(小売業の価格戦略No1)に私が述べた、低価格品が中心とする小売業が高品質品を導入する際の戦略の第二番目(消費者が知覚しない程度の値上げを少しずつ、繰り返す)について考えたいと思います。
前述のように消費者は絶対額ではなく変化率に反応するのだから、消費者が値上げと知覚しない程度の値上げを、消費者が知覚しない方法によって行うのが正しい方法といえます。
例えば、新製品の導入と称して既存製品とほとんど同じ商品をやや高い価格で導入する方法や、現在の原材料価格高騰のような状況の中で目立たないように値上げをする方法などです。
逆に値下げの際は、消費者が知覚できるような方法や程度のものを行う必要があります。
次回は、値上げと店舗ブランドイメージの関係を取り上げたいと思います。
主な参考文献:
Han,S., Gupta,S., & Lehmann,D.R. (2001). Consumer price sensibility and price thresholds. Journal of Retailing, 77, 435-456.
Kahneman,D., & Tversky. (1979). Prospect theory: An analysis of decision under risk. Econometrica. 47, 263-291.
小売業価格戦略 No1
当ブログを始めて第一回目の投稿なので、何をテーマにしようか悩んだのですが、商品の価格について話から始めようと思います。
証券アナリスト時代、投資(候補)先の小売業者の価格戦略に対して、消費者がどのように反応するは正直、良く分かりませんでした。有名な例としては、日本マクドナルドの低価格バーガー導入の大成功があります。ただし、その後の値下げは、しばらくの間、なかなかうまく客数増加に結びつかなかったようです。
恐らく、小売業者の方々も、理論的な見地からではなく、(1)過去の経験から、(2)社長の鶴の一声などで決めたケースも多いのではないでしょうか?
よくあるケースは下記の通りだと思います。
(1)低価格を推し進める量販店で、客単価を上げるための高品質・高価格帯の商品群の導入
(2)減少し続ける客数(前期比)の増加のための値下げ
理論的な観点からは、(1)内部参照価格 (internal reference prices)と(2)プロモーション境界点 (promotion thresholds) という概念が重要です。
第一回目は、内部参照価格 (internal reference prices) に関して書きます。
内部参照価格は、消費者の記憶の中にある(商品群一般)価格です。その内部参照価格と比較することで、消費者はその商品が割安かを判断しています。
実際の調査でも消費者はかなりの割合で正確な(他店などの)商品価格は覚えておらず、多くのケースで、(実際の他店の価格ではなく)記憶内の内部参照価格と比較して、実際の店舗で提示してある商品の価格が高いか安いかを判断しています。
私の理解で言うと、内部参照価格は、その状況における記憶にある(平均)価格です。つまり、海の家でジュースを買う場合は、自分の記憶によると200円が相当で、180円で売っていれば、安く感じます。一方、街の雑貨屋ではやはり、過去の記憶上、100円が相当で、180円で売っていれば高すぎるということになります。
それでは、この例を紳士服の量販店(低価格で有名な)に当てはめてみましょう。消費者の記憶上の(その商品ジャンルの)紳士服の値段を、仮に18,000円としましょう。本当に品質の良い高価格の紳士服(仮に70,000円)を同じ店舗に導入するとします。多くの(羊毛などの専門知識のない)消費者は高品質の紳士服も低価格の紳士服も同一ジャンルにみなすことが多いです。その場合は、内部参照価格の18,000円と70,000円を比較して、70,000円の紳士服を割高と判断しているのです。3,000円のネクタイの横で20,00円の自社ブランドのネクタイを売っても売れないのも同じ理由です。
ただし、アルマーニのブランドがついている紳士服に関しては別です。ブランド名が、その店の自社ブランドと明らかに別のジャンルであることを明示します。
私の見解としては、低価格品が中心とする小売業が高品質品を導入するには、(1)別ブランドの店舗を導入する方法か、(2)消費者が知覚しない程度の値上げを少しずつ、繰り返すしかないと思います。後者は次回のプロモーション境界点 (promotion thresholds) の回で取り上げます。
一部の読者の方は、下記の疑問があるかもしれません。
(1)紳士服店などは品質表示などを、高価格帯の横でかなり品質表示等を行っているので、消費者はそれを見て(理解して)高品質商品を他の商品と別ジャンルを理解するのではないか。
(2)ブランド品は量販店では売れないのではないか
たいていの消費者は、購買行動の際、情報処理をしっかりは行いません。つまり、品質表示をしっかりと理解して購買するのはほんの一部の関与(Involvement) の高い消費者のみです。2番目の指摘はその通りです。消費者は単に品質・価格のみを判断材料にしているのではなく、店の雰囲気や消費者の気分(Mood)なども、消費者が品質をどのように判断するかに大きな影響を与えます。これらは今後、取り上げる予定です。
主な参考文献:
Urbany,J.E., Dickson,P.R., & Sawyer,A.G. (2000). Insights into cross- and within-store price search: Retailer estimates vs. consumer self-reports. Journal of Retailing, 76, 243-258.
Thaler,R.H. (1985). Mental accounting consumer choice. Marketing Science, 4, 199-214.
Niedrich,R.W., Sharma,S., & Wedell,D.H. (2001). Reference price and price perceptions; A comparison of alternative models. Journal of Consumer Marketing, 28, 339-354.