消費者心理とマーケティング -店舗の雰囲気No2- として、店舗の雰囲気が消費行動に与えて影響 (店舗の雰囲気が消費行動の判断・評価)について考えて行きます。
前回は感情的な影響を取り扱いましたので、今回は、商品・サービス・価格などの情報を基にした消費者の判断・評価 (cognitive process) を扱います。
(1)認知的な影響
消費者がどのようにして、商品・サービスを認知・評価するかについての認知心理学 (Cognitive Psychology) の考えを簡単に振り返ります。
認知心理学は1960年以降に心理学の主流となった考え方です。
それ以前は、(1)外部情報を受けて、(2)人間がそれを認知・評価して、(3)行動を起こすという一連の中で、(2)をブラックボックスにして、(1)と(3)の解明に力を注ぐことが主流でした。
認知心理学はそのブラックボックスであった人間の心の中身の研究に主眼を置いています。
エッセンスを本当に簡単に言うと、(1)人間が外部情報(広告など)の中のほんの一部の部分を知覚し、(2)その知覚された情報は消費者の(特に短期)記憶に留められます。(3)しかし、たいていの情報はそれ以上の過程には進みません。
新たに外部情報が入ってきた場合は、先ほどと同様、ほんの一部の情報のみが知覚され、(4)一部の自分の興味に沿うもの(High involvement)のみ、上記の記憶の中から情報を取り出されたり、(5)外部の情報源(広告、口コミ、その他)からの情報を探索します。(6)それで、最終的に購買意図の判断をします。
ポイントは、消費者に与えられたほとんどの情報は知覚・処理されず、ほんの一部の情報しか情報処理されないということです。また取り出される記憶の中身は常に一定ではなく、非常に変化しやすく、しかも都合の良い記憶のみが取り出されることも多々あります。
ここで、本題の店舗の雰囲気との関係の話に戻ります。
ポイントは、店舗の雰囲気の知覚(例、ポジティブ、ネガティブ、高級店)によって、その後の同じ情報に対する消費者の下記の情報処理の過程が大きく変わることです (Lam, 2001)
- 情報への注意
- 情報の知覚
- 内部(記憶など)・外部(広告など)の情報検索
- 上記の取得した情報の処理
- 商品などの評価
事例1.
外資系の投資銀行・証券会社の内部の雰囲気は国内系競合の雰囲気とは別のものがあります。非常にハイクオリティーです。大手監査法人、コンサルティングファームなども同じようなコンセプトです。これらの雰囲気によって、彼らのコメント一つ一つが、仮に中小の同業者と同じことを言っていても、より専門性を感じさせるのです。
例えば、まったく外資コンサルティングファームを知らないある地方の企業家が、友人の紹介でその外資コンサルティングファームを訪問するとします。
(1)まずオフィスに入った段階で、先方の事務所の雰囲気を見て、実際どうかはともかく、今までの先方の事業の成功を想像すると思います。
(2)そうなると、先方のプレゼンをより興味を持って聞くかもしれません。
(3)すると、以前、このコンサルタントをテレビでちらっと見たことがあることを思い出すかもしれません。また、プレゼンしている内容(例、消費者行動について)に関する本を本屋で立ち読みしたことを思い出すかもしれません。
(4)前述の先入観がある場合は、その本に成功事例が載っていたことを、特に強く思い出す可能性が高いです。(実際は、その本には成功事例と共に失敗事例も載っていても・・・)
(5)すると、先方のプレゼン内容を自社に当てはめると成功する気がより強くすることとなります。
事例2.
初めてその店に行った時、商品を使用する時などは、消費者は自分の過去の使用経験がないため、外部の手がかりをその商品や店舗の品質を評価する際の手がかりにつかいます。
そのため、雰囲気の良い店舗では、それだけ消費者の期待する品質が高くなります。
消費者は、合理的に様々にその場で入手する情報を基に判断・評価しているつもりでも、人間の判断・評価は先入観などによるバイアスが入り易いものです。
事例3.
消費者は、店舗の雰囲気を基に、その店舗のカテゴリー化をします (Ward, Bitner, & Barners, 1992)。
例えば、車を運転していて、ある店舗(例、アパレル)を見つけて駐車場に入ったとします。駐車場からの眺めもしくは一歩店舗に足を入れた段階で、その店舗が高級店なのか安価な製品を販売しているかを判断します。
その時のポイントは、その店舗の雰囲気(外装・内装・サービスなど)が高級店もしくはディスカウンター、どちらの典型的なパターンを示しているかです。
仮に本当は、高級は服を販売しているが、外装など雰囲気がそのような典型パターンとは異なる場合は、消費者は駐車場からは、高級品を売っているように判断しません。仮に店舗内に入って来てくれても、その後の商品を評価する過程でも、何かとネガティブな情報がより多く頭に浮かんで来ます。
仮に外装など雰囲気が典型的な高級店のものだと、消費者は店舗内でも上記ほどはネガティブにそれぞれの情報を捉えないし、逆に良い情報が頭に浮かんで来やすくなり、良い面(サービスなど)が見えてきます。
なお、認知心理学の説明の部分は、ほんのエッセンスで、しかも専門用語を抜かしながら書きましたので、専門家やより情報が欲しい方には、不十分かつ誤解を招く可能性のある書き方になっています。よって、より正確な情報が必要な方は専門書にお当たりください。この部分は、海外の消費者行動論のちゃんとした教科書ならほとんどの本に書いてあります。
参考書(例)
Solomon,M., Bamossy,G., & Askegaard,S. (1999). Consumer behaviour a European perspective. Essex: Person Education Limited.
次回は、-店舗の雰囲気No3- として、店舗の雰囲気が消費行動に与えて影響 (消費者生理) について扱います。
主な参考文献:
Lam,S.Y. (2001). The effects of store environment on shopping behaviors; A critical review. Advances in Consumer Research, 28, 190-197.
Gardner,M.P., & Siomkos,G.J. (1985). Toward a methodology for assessing effects of in-store atmospherics. Advances in Consumer Research, 13, 27-31.
Hui,M.K., Dube,L., & Chebat,,J.C. (1997). The impact of music on consumer’s reaction to waiting for services. Journal of retailing, 73, 87-104.
Ward,J.C., Bitner,M.J., & Barners,J. (1992). Measuring the prototypically and meaning of retail environments. Journal of retailing, 68, 194-220.