私が派遣社員として勤務していた某金融会社情報システム部の外注会社は、長さが50m以上はありそうな1フロアに全ての外注会社が押し込められていて、外資系コンピュータ会社から大手システム会社が何十人から何百人単位でシステムエンジニアと呼ばれる人たち各人をモニターの前に配置していました。
このフロアは情報漏洩対策としてセキュリティが高いので入退出は厳しいこともあり、一日中外の風景も見えない場所で端末の前で仕事をしているというのは、短期間であれば許されるという気がしましたが、長期になると嫌気がさしてくるのではないかと思われるような環境で、見方によってはギリシャ時代の軍艦の奴隷のオール漕ぎの風景にも見えない事はないのかと感じていました。
仕事をするだけでの環境なので、普通のサラリーマンのような暇な時間というのは、単にモニターを呆然と眺めて居たり、意味も無くマウスやキーボードを叩いて限られたイントラサイトに掲載された閲覧情報を見るという事しかできないと思えました。そういう環境にあるせいか、トレイが何時も混雑していたのはストレスの発散場所が無いことを象徴しているのかなと思いました。
元請会社から派遣されている社員は仕方なく仕事をしているのかなと思えるような雰囲気も感じられましたが、大半のシステムエンジニアは元請会社の社員ではなく派遣会社から派遣された人達であると気づくにもそんなに時間は掛かりませんでした。
毎週のように派遣会社から新人が派遣されるので、社員研修という事が定期的に行われていて、私も勤務してから早々にその研修に参加しました。私が参加した時は派遣社員が40名位もいたので、如何に派遣社員の出入りが激しいかというのを見るような気がしたのでした。そういう出入りが多いというのは給料が安いということもあるとは思いましたが、それよりもだだっ広いすぎる場所で黙々と与えられた仕事をするという事に疑問を持つからではないかとも感じました。
こういう環境の良くない場所でも結婚している若いカップルがいて、昼飯時には何時も私の座っている場所の近くで二人並んで弁当を食べているという光景を目にしていました。こんな味気ない場所で昼飯を二人で食うのは如何なものかという気がしました。確かに、ビルの外に出ても公園があるのはあるけれど、弁当でも開こうかという雰囲気にはなれない場所しか無いというのも分かっていましたが、味気ないこのだだっぴろい執務室で弁当を食うのはいただけないなと感じました。
私は30人程が座れる机の列の一番通路側に座っていたのですが、反対側には外資系コンピュータ会社が雇っている派遣社員の中国人の若い女性が座っていました。当然かもしれませんが、その若い中国人女性は日本語は普通に会話ができていました。仕事的には難しい仕事のようには思えませんでしたが、時々は外資系コンピュータ会社の社員から教わっているような話も聞こえてきました。私には中国人の若い女性がシステムエンジニアとして働いている事を認識ができたのが驚きでもあり、こういう人達が中国に帰国して技術レベルを高めていくのかなとも想像をしていました。
この外資系コンピュータ会社の責任者は、40歳代の背の高いが容貌は所謂濃い顔で顔が長く厳つい男でした。毎日夜は一番遅くまで残っていて、社員とか派遣社員の机の上に何か情報を書いたメモ等が残っていなかどうかというチェックをする姿を何度も目にしたので責任者だろうというのに自然に分かりました。この男と社員や派遣社員との会話は、人が少ない静かな残業時間には自然に耳に入りました。その話の内容は仕事の話ばかりで遊びとか世間の流行とかとう話に及ぶことは百に一つか二つという程度だったので、このフロアでは休む暇もない場所なのだというのを思い知らされるような気がしました。
自由が限定されている場所での仕事もあるのだという経験をしたのですが、派遣社員という最下層に置かれた人間にはその限定されるという意味合いが非常に強烈なものであるというのも理解できたという意味で非常に貴重な経験ができたと思いました。