派遣社員として私が担当したのは、某金融会社の一部局のシステム変更の仕事で、概要設計書と稟議書の作成というものでした。
私が作成する資料はすべて派遣社員の発注者である某大手システム会社の社員が事前に校訂をして修正して、その修正された資料をシステムの発注主である某大手金融会社の情報システム部員にレビューをしてもらい、設計書や稟議書を修正して仕上げていくという事を3か月続けたということでした。
そういう仕事を朝から晩遅くまで続けていると、当然ながらシステムの発注先である某大手金融会社の情報システム部内の実情も見えてきて、自らの意志ではなく自然と他人の家を覗くような事になったなと感じたのでした。
最初に社員の給料が高いのではないかと推測をしたのは、金融会社なので給料も良さそうに思えたからでした。しかし、情報システム部員の身なりを見ていると案外にそうではないのかなとも思えたのでした。当然ながら金融会社というので身なりは清潔できちんとはしているものの、着ているものはセンスがあるとか高級なものを着ている人は見かけませんでした。私が感じたのは、私が大学卒業後に入社した某財閥系の会社と同じようなやや地味な感じがしたので、金融会社と言えども全部が高給な会社ばかりではないだろうという事を薄々感じた事でした。
社員の情報システムに対する知見は如何なものかと思って、私が書いた設計書のレビュー時に意見を聞いていると、社員のシステムに対する能力感を理解することができました。社員は一通りの知識はあると思えましたが、深いものではないように思えました。この会社ではシステムの一切を外注化しているので、システムの命運を外資系の会社に握られているように思えました。情報システム部員は外注管理的な仕事に重きを置いているのかなと思えて、世間のどこにでもありそうな自社の業務には精通しているものの、そういう業務を支えるシステムの内容の理解は深くないと思えて、そういう意味では世間並みといえる社員の集合体だろうと推測をしました。社員は大切なシステムの開発とか運用を担当しているという気概はあるとは思いましたが、それがシステムの深い知識とはつながっていない様に思えたのでした。
ある会議時には、部長クラスの人から「業績が悪いので支店の端末を減らすのだろう、もうできているのかな」という議題とは関係のない話が飛び出して、社員が「ええ、予定通りに終わってますよ」というようなやりとりがありました。普通の会社よりも費用削減の対策が迅速に行われるのは大したものだと感心したことがあります。生産設備の無い会社なので、費用削減は人員整理とか固定費の削減というところにしか踏み込めないのだろうなと思いながらも、実行力の早さに驚きながら話を聞いていました。
システム改造の稟議書を書くというので、最初は情報システム部長用のものを作成しました。こちらはシステムに詳しくは無いけれど、過去の経緯や業務内容を知っているので、設計書を引用しながら作成して終了しました。部長説明会の席には同席しませんでしたが、問題なく了承されたと聞きました。問題は予算を負担する部署への稟議書の作成が大変に興味深いものになりました。
予算を握っている部署に費用を負担してもらう理由を述べるのですが、システムに詳しくはないという事を踏まえて、如何に説得をするかという内容を記述するというものでした。臨時要員である私は当然ながら社内事情は何も分からないので、言われるがままに記述を何度も訂正して作成しました。最初は情報システム部内の管理部門の社員とシステム責任者を交えて事前に内容を推敲して作成しました。何度も訂正しながら作成したので私には労作と言えるものでした。その稟議書を費用負担をする部署への説明会にも同行して、必要があれば修正しようというので身構えて会議室に入りました。
費用負担をする部署の責任者に資料を配布して説明を始めるや否や「あれっ、ここに書いている事って違うんじゃあないの」と言われて情報システム部の責任者とシステムを受注するシステム業者は言葉も出なくなって固まってしまいました。私は意味が不明でしたが、原局の意図を情報システム部も正確に理解していないし、システムを受注するシステム業者も理解ができていないということが露見したのかなと思いました。資料は全面的に修正というので会議は5分で終了してしまいました。
情報システム部の責任者や担当者に加えてシステム業者の理解不足をとがめられたのを、赤の他人の私が聞いてしまったというので、ばつの悪い雰囲気になりました。会議室がものすごく小奇麗なだけに、一同が静まり返った時間がえらく長く感じられたのでした。
こうして派遣社員の3か月は貴重な経験をさせてもらったのですが、長年情報システムという業界に身を置いていたので、経験上少しの情報に触れると会社の実態が想像できたと思いました。それは、企業名だけを見て優れた人材がいるのではないかとか、進んだシステムを利用しているとかいうのは雑誌の記事の世界だけであって、現実には情報システム部の実力というのは結局のところ日本的な横並びではないかという風に感じられたことでした。