派遣社員として最初に勤務したのは、自らが新規顧客として開拓して長年自分のユーザーとして付き合ってきた顧客でした。情報システム部の全員とは面識があったので特に緊張をするというような事はありませんでした。情報システム部員からみればどういう仕事の為に来たのかと不可思議に思えた人もいたと思います。
派遣社員として勤務してから1年後、新しいシステム開発がきちんと終わったのか終わらないのか不明なまま本番に突入して障害が多発したのですが、システム開発を受託した事業部の対応は担当のシステムエンジニアがあたふたするだけで役員や管理者が説明や謝罪でこの顧客を訪問するという事はありませんでした。
私が営業マンとしてこの顧客を担当していた時に、システムエンジニアのミスで事務処理に影響が出たというので、私は現場の責任者に「坊主頭にして謝罪するしかない」と言って、現場の責任者を坊主頭にさせて謝罪したことがありました。そういう一件を思い出すと、この新システム開発がきちんと終わらなかった責任を表す形として、社長以下関係者は全員丸坊主頭になって顧客に謝罪しなくてはならないのではないかと感じたのでした。
もっとも当事者は、金を貰って仕事をしただけですと言うくらいの認識しかないと想像されるので、謝罪などというのはとんでもないと思っているに違いないと確信しています。
 
1年半の間、派遣社員なので毎日がパソコンを使って資料を整理したり作成するという事をしましたが、カレンダー通りのリズムある生活が健康を保っているように思えました。営業職とは違い毎日一日中机に向っての仕事なので単調な時間が長く感じられたこともありました。そういう毎日では職場が単調な分、通勤での景色の移り変わりに興味を持って見るようになったのは自然の流れかもしれませんでした。
通勤途上で丁度ビルの建て替えの現場が歩道橋からのぞき込めるような場所があって、工事の進み具合を確認するのも楽しみの一つでした。特に古いビルを解体した後の地下部分ではビルの杭抜きがうまくいっていないとか見えたり、解体が進んでどんどんと掘り下げていくと周りの地盤が崩れないかと心配になったりとかというのを面白く見ていました。現場では毎日ラジオ体操をしていて作業員の入れ替わりが頻繁に見えたのは昨今の職人不足という事かも知れないと思いました。
ダンプカーで廃土の積み出しをするときも朝早くから行なわれていて、クレーンで土をダンプに積む様子を見ていると面白いのでついつい足が止まってしまう時も度々ありました。土も無くなりコンクリートの壁や柱の解体の時には、鉄筋とコンクリート塊の仕分けをきれいにしているのもなかなかに興味深く見られて、童心に帰るとはこういう事かとも思ったのでした。
ビルを解体している隣の古いビルでは、テナントがいなくなってどうするのか思って様子を見ていると、ビルの一番上の階にある会社だけは移転もせず営業しているのが不思議でしたが、暫くするとリニューアル工事が始まって1階にはコンビニが出来て、2階以上にはホテルと命名されていました。工期が短いのでどういう風に事務室をホテルに作り変えたのか興味があったのですが、テレビで紹介されているのをみたらカプセルホテルになっていたので短工期の理由が分かり得心しました。このホテルに出入する人たちは一様に足早で堂々として入館するように見えないのでいぶかしく思ったのも訳が分かって納得をすることが出来ました。ホテルを利用していた人たちは中国人ではなく日本人ばかりというのも団体はうけいれていないのかとも想像をしていました。この老朽化したビルの前は大きなホテルがあって、通勤の帰り道で時々中国人からホテルへの道筋を質問されたことがあったので、大手ホテルが爆買いの中国人を受け入れているんだろうと分かりました。イタリアに旅行した時も部屋数の沢山あるホテルでは大勢の中国人ツアー客を見かけたので、中国で大勢の団体で海外旅行をするのが流行していると再認識したのでした。
古いビルがホテルにリニューアルされた近くにの空き地に、両側駐車場の間に塀で囲んだ小さな土地があって中は雑草が伸び放題で数本の細い木が伸びているのを見ているとかなりの間放置されているのが分かました。売主がどうしても売りたくないのでそういう状態が続いているのだろうと思いました。そういう状態は何時まで続くのかなと見ていましたが、派遣社員として通勤を始めて1年も経過した時、漸くその塀も取り壊されたのを見ると時の流れはあるのだなというのを感じたのでした。