新任の情報システムにはめっぽう疎い部長は自らの知識の無さを勉強する風でも無く、何か事件が発生すれば常識的な判断をして解決をするという方法で毎日を過ごしているようでした。職務上自ら何かをするという風でもないので暇を持て余して部員と長話を延々とするというような事があったと、後ほど情報システム部員から聞かされる事もありました。
そんな呆然自失というような日常を過ごしていたら、新情報システムを開発した際に外資系コンピュータ会社とかわした契約が切れる事になり、更新をしなくてはいけないという事態になりました。当然ながら、この時は異動になったばかりの転職してきた担当部長も契約更改のアドバイスに当たったようでした。しかし、会議での発言を聞いていると追認ばかりで迫力も無く余り力になっていないと感じました。
この時ばかりは新任の素人部長は毎日のように残業が続き夜遅くまで事務所に残っているのを目にしていたので、私はてっきり真面目に契約費用の削減とか新しい契約について検討をしているとばかり思っていたのですが、それは思い過ごしである事は直ぐに分かりました。外資系コンピュータ会社では契約期限が切れるのを機に、再びハードウエアやソフトウエアを売って利益をあげようと考えるのは当然でした。
そういう水面下で色々な折衝が行われていて、愈々方針が固まりプロジェクトが開始されるというのでお呼びがかかり、システムエンジニアを同行して大きな会議室に出向きました。
そうすると、その時の外資系コンピュータ会社は数十人ものシステムエンジニアが出席して、前回の新システム開発の時のミニプロジェクトみたいなものが開始されようとしているのが分かり愕然としました。
前回の新システム開発と違い、癖のある課長が全てを仕切っているわけではなく、役割が情報システム部員に担当が割り振られていて各自に仕事の進め方がある程度任せられていたのが前回の開発体制とは違う様に思いました。前回の新システム開発では、形はシステム毎に担当者が割り振られていましたが、実質癖のある次長の言うがままに仕切られていたので決めるのは早かったのかも知れませんが、間違った方向に行くこともあったのではないかと推測されることも多々あったように感じていました。
最初のプロジェクト会議ではメンバーの座る席が指定されていたので、一番奥の3人が座る席に私の勤務していた会社のメンバーが座りました。そして、横に見覚えのある外資系コンピュータ会社のシステムエンジニアが座ったので少し驚きました。あの時にプロジェクトに参画したエンジニアや営業マンは全て飛ばされたと思い込んでいたのですが、この一人だけは生き残ったのかと思いました。当時よりは生気も失せて色黒になっていたように見えて、前回のプロジェクトの生き残りで経緯を知っているメンバーとして参画しているのではないかと推測をしました。
こういう全体会議が何回か行われた後に、分科会のような会議が開始されて新システム開発で導入されたハードウエアとかソフトウエアの更新作業が開始されたのでした。この時は、癖のある課長に非常識な値引きを強いられた私が見積もりをしたソフトウエアも更新になり、再び一苦労あるのかと少しばかり気が滅入るような気分になりました。
こういう状況を目にして私は情報システム部員に外資系コンピュータ会社との折衝の経緯を聞いてみると「無駄な使用しないソフトウエアも購入していました」という言葉を聞いて「癖のある次長は外資系コンピュータ会社の言われるがままに契約していたからでしょう」と答えると「そうですね」という答えが返ってきて、この時癖のある次長が確信犯であるというのを確認できたのでした。
それに加えて、素人の情報システム部長は何を努力していたのか分からず、外資系コンピュータ会社の提案をそのまま鵜呑みにしたような契約にサインをしたと聞いて驚かされました。結局、表向きは文句はいうけれど契約という言葉に脅されて、システムが止まるのではないかという不安から言うがままに契約をさせられたのではないかと思いました。
この時の外資系コンピュータ会社の営業マンは担当してから1年と少ししか経っていませんでしたが、会議の席で見せた笑いが止まらないという顔はしてやったりという顔でした。営業担当は中堅の営業マンでしたが、相手の心情を考えれば少しは自制した表情を作る場面ではないかと思いましたが、再び何十億円という契約を結んで自らのボーナスを想像すると笑顔は抑えられなかったという事だったかも知れないと思いました。
新任の素人の情報システム部長は真面目な人で、業者の接待には警戒をしていたので、少人数の接待には乗ってきませんでした。新任部長は中途採用とはいえ、社内で築いた信用には傷を付けたくないし、裏金にも縁の無い事が役員の信頼を得ているのだと私は思っていました。
そういう状態なので接待は個人的なものはできず、最初は課長さんを含めて十数人で忘年会をして、口では言えない程の高利益の契約の御礼をしました。
それが二回目になった時、部長さんや課長さんが時間通りに現れないのでロビーで待っていると、私の上司である営業部長が現れて「来年は嘱託契約の更新ができません」と関係の無い話をされて驚きましたが、こんな場所で気分の悪くなるような話をする方の神経も異常だと感じたのでした。薄々は不機嫌そうな部長の雰囲気は感じていましたが、そういう重要な話は会社の会議室できちんと説明するのが常識だろうと思ったのでした。
しかし、世の中には通じない非常識な感覚を持つ役員や部長がごろごろしている会社なので、その時も怒るわけでもなく「へえ、そうですか」という一言を返して会話は終わり、その日の忘年会もなごやかに何時も通りに終わりました。