新システムが中断してすっかり私と顧客との連絡が途絶えて、細々とした案件を新入社員が勉強を兼ねて対応をしてもらっていたような日々が数年続きました。実はこの間にもほとぼりが冷めた頃を見計らって私は癖のある課長と面会をしていました。1千万円返還交渉から半年以上も経過していたという事もありましたが、元々この男は健忘症だという特性を理解していたので連絡をしたら案外簡単に誘いに乗ってきました。
夜の接待という訳には行かないので昼飯に何度も行きましたが、癖のある課長も私との一対一では怪しまれると思い女性二人を同行させてきました。私が勤務していた会社からこの顧客には地下鉄で行くのですが、昼飯に行ったのは地下鉄から顧客への行く途中の道ではなく、顧客のビルから先の地場商店街にあるレストランでした。昼飯は何時も弁当を持参しているという女性達には、昼飯代を私が負担するのでいい存在だったかも知れませんでした。この女性達は以前から面識もあり楽しく話が出来ました。そして、そういう会話のうちに顧客の情報を聞き出して部内の状況を把握することが出来ました。
レストランは女性たちを意識して何時もイタリアンを食わせる店に行きましたが、何時も子供連れのおばさんで混雑していることが多く、繁盛していると思ったのですが、半年後には店じまいになっていましたので小さな商店街での飲食業も厳しいのだという現実も見ることが出来ました。
何度も何度でも書きますが、当然ながらこういう飲食代は自腹で一度も会議費で会社に請求した事もなく、営業マンとして勉強代という風に思って割り切っていました。こういう現実も知らない会社の管理職や役員の能天気な顔を見ていると、社内で内弁慶よろしく偉そうにしている態度が何とも言えず可笑しくて、他社どころか自分の勤務している会社のレベルだって世間相場より相当に低いなと思い心の中では大笑いしそうになる時もありました。
癖のある課長とか、女性たちの話を聞いていると新任部長の評判が芳しくないことが分かりました。新任部長は書類の審査にはめっぽう厳しく、私もあれこれと不備を指摘された経緯があるので、技術者と言うよりも事務が得意なのかと思っていたら、部内の采配もいまいちだということでした。新任部長は転職してきて自分の色を出そうとして組織を変えましたが、それも不評の一因でした。同時に、新任部長は転職してきた後に部員の技術とか素養のレベルが低いのが分かって「部員にコンサル会社の研修を受けさせようと思い予算を捻出しました」と得意気に資料を見せて私に説明をしたことがありましたが、部員にとってはえらく迷惑な話であっただけだろうと感じていました。
意気込んで自分の考える事が正しいと信じて部内改革をするつもりだったのが、性急すぎて不評になったものと思えました。元々小さな会社が急成長して膨張した会社なので、会社の成長と社員の成長には大きな乖離があったのですが、社風も営業主体で事務方は日陰見たいな存在で社員の意欲も低いと言うが現実で、そういう風土とかいうものを十分に理解しないで自分の考えを押し付けしすぎたのだろうと思いました。
転職してきた新任部長が来てから1年程も経つと評価が定まって、ある時この新任部長が「私の悪口を告げ口している人がいる」と話しているのを聞いた事がありました。私が昼飯時に部員から聞いていた情報が本当だと分かった時でしたが、この会社ではこういう個人の悪い評判というのが社内では気にされるような風土であったと思います。家族的な雰囲気を少しは大切にすると言う、ある意味ではいい職場環境ですが、給料が世間相場よりも低いのでそういう事は気に掛けなくていけないという社内事情もあるのだろうと理解していました。癖のある課長は多分社内では地位を利用して悪い事をしでかしていると分かっていたとは思いましたが、それでも首にするわけでもなく勤務することができていたのも社風だろうと思っていました。
ある時、新任部長は情報システム部の部屋も関係者出入り禁止という張り紙を貼らせたので、部室には部長が不在のとき以外は入ることもできなくなりました。しかし、何かのついでに担当者と一緒に部屋に入ったこともありましたが、誰も私が室内にいることに意義を唱える人もいなくて、担当者が不在なのでその席で座って待っていて下さいと言われた程でした、部員には私のような業者が室内に入ることに抵抗はなかったようでした。こういう所も新任部長は大会社と思って何か勘違いしているのではないかと思ったのでした。