癖のある次長の夜の接待では本当に常識以上の大枚を散在してしまいましたが、新システム開発プロジェクトで私の勤務する会社の担当者が何かをやらかしても何事も無かったかのように許してもらえると思えば仕方無いことと割り切るしかなかったと考えていました。
このような個人の接待が始まった最初の頃は、夜の接待は繁華街の何処か目印のある場所とかで待ち合わせをしていましたが、プロジェクトが段々とよれてきて癖のある次長も夜8時とか9時位にかにしか情報システム部の部屋を出られなくなるような事態になると、会社の近くのファーストフード店で待ち合わせをするようになりました。この時の出来事は以前の項で記述しましたので省きますが、じっと店内から道行く人やファーストフードを買い求める人たちを見て、その人の生活とはどんなものかと想像しながら癖のある次長が来るのを待っていました。こういう内緒の接待は同じ会社の社員に知られないようにと配慮して、待ち合わせ時間に癖のある次長が現れなくても決して督促の電話などはしませんでした。1時間以上も遅れるのはざらで、夜10時過ぎに現れた時も空になった紅茶のカップを前にして焦らずじっと待っていました。そういう時にはどういう事件が起きているのか癖のある次長は自分で白状するので状況が把握することが容易に出来ました。普段ならば自宅に帰ってとっくに風呂に入り終わり、テレビのニュースを見ながら寝る支度をしている時間に、しょぼしょぼする目をかっちと開けて身構えていられたのは、この接待は仕事であると自身に言い聞かせていたので出来たのだろうと思っています。営業マンのプロフェッショナルとして根性の見せ所だと思えば眠気も自然と失せて行きました。
夜の接待ではありとあらゆる飲食店に行ったと思います。これほど気の利いた接待を受けた人はいないのではないかと思えるものだったと思います。自腹の接待とはいえ決して相手に不満を思わせるのは嫌なので、相手が満足するまで徹底するというのも私の性格がそうさせたのだろうと思います。それくらいに相手は接待されると、出ばなをくじかれた如く意地悪な性格が溶けてどうでもいいような風に変化するような人間なので、こちらもそれじゃやってやろうという気になるのでした。
そういう変な人間関係がプロジェクトの開始半年後から約3年間も続いたのでした。そういう策を打っているので、朝会社に出社して自分のパソコンでメールを確認してもクレームなどは来るはずもないので安心できました。それまでは、何か変な言いがかりを付けられるのではないかという変な不安感が毎日のようにあり心理的に非常に悪い日常を送っていましたが、この接待攻勢を続けていた3年間のみは全く気分が違い昼間の会社で過ごす時間ものんびりできていたと思いました。新システム開発を受託した外資系コンピュータベンダーが何かをやらかしとエンジニアから報告を受けても、私の勤務していた会社が受託した仕事に影響がなければ「そうですか、そりゃ大変だ」と他人事で済ませられるくらいに余裕ができていました。
接待する店は何時も同じではいけないというので、初めの頃は繁華街にあるレストラン街の4フロアにまたがっている店を順番に全部回ろうと言うことにして、味やサービスの良い店は繰り返し利用するということになりました。寿司屋に始まり、日本料理、中華料理、西洋料理とあらとあらゆる料理を食べることになりました。
癖のある次長はそういう店に入ると他人の様子が気になると見えて良く私に解説をしてくれるのでした。夜が遅いので飲み屋のおかみさん風の人なんかが来ているのですが、ちょいと厚化粧の女が気になるのか「今、板さんとメールのやりとりをしましたよ」なぞというのを私に解説するのが楽しいようでした。私は酒を飲まないし、そういう類の人間も好きではないので全く関心がないのですが、癖のある次長は私とは全く正反対な性格なので飲み屋の女将とかが気になるとしか思えませんでした。それからバニーガールのいるキャバクラに行きましょうと言われると嫌だと思いながらもとぼとぼとついて行きました。このお気に入りのキャバクラ店も場所が変わってもちゃんと行けていたのは、私と一緒の時以外でも一人で何度も来ている証拠かなと思ったこともあります。
このキャバクラに情報システム部の美人の女性社員を連れてきて得意になっていましたが、件の社員はキャバクラ嬢よりもずっと美人で酒も強いので「明日からここに出社しましょうか」と冗談を言って笑っていました。癖のある次長は部下をこのキャバクラに呼んで自分の力があるのだというのを見せつけようとしていましたが、部内での評判は一向に良くはなりませんでした。そういう表面的な事では誰も懐柔することは出来ず、元々の性格が変なので部内では嫌がられていたということが自分では分かっていないなと思っていました。何より自分で金を払わないで、私が金を支払うので部員はそういう場面を見て余計に心は離れていったのではないかと思いました。