私が営業マンとして付き合い始めた会社は、個人商店が急激に大きな会社となったので、色々な場所で普通の会社とは違うところがありました。個人商店なので社長が何事も決めるということでその存在は普通一般のサラリーマン社長とは全く違っていました。
大きな会社になっても近所のおばさんは昔からの付き合いというので、時々饅頭とかあんぱんとかを社長のところに持参する人がいたらしく、社員が決済についての説明を社長にした時などは、社長はそういう貰い物を消化する好機ととらえて社員に「食え、食え」と言って食べるのを強要していたことでした。社員からこの話を聞くと、仕事よりも胃の調子を整える方が大変と言う風に私には聞こえました。
社長は当然ながら人事権もあるので自分の座っているフロアには美人を据えたいというので、パソコンで顔写真付の社員名簿を見ては女性の異動もさせていたということでした。これは普通の会社でもよくあることなので特段に驚きはしませんでした。普通の会社ではそういうことは社員の定期異動とかで件の人が特定の管理者の横に座っていたという風になり意図が何となく分からない様に仕組むのですが、この会社はあからさまなのが大きな違いでした。
自社ビルも元々は自分の土地に建てたものでしたので、ありがちな道路に面する長さよりも奥行きが長いのでビル自身は見栄えがいまいちでした。受付の横には吹き抜けで大きな木を植えていました。役員会議室は後には一般社員にも開放されたので、私も会議で参加した時に初めてその会議室に入りましたが、椅子がやたら高級すぎて座り心地の悪いものでした、見た目ばかりの成り上がり者的な雰囲気を感じました。これは他社の一代で大きな会社にした企業を訪問した時も応接室がびっくりするほど豪華で会議をするという気が失せると言う記憶があり、それと同様というような感想を持ちました。
初代の社長が一代で大きな会社に成長させたというのが普通にはない希少な会社だと思って、ある意味では尊敬をしなくてはいけないかとも思いましたが、それよりも会社として組織で動きだすと社長が云々と言うようなことはなくなるので段々と普通の会社に変貌するのだろうと思って見ていました。
そんな個人会社の色濃い会社で一番の驚きは100円食堂でした。昼食と夜食を社員食堂で提供していましたが、会社費用負担で食事を提供していましたが全て100円でした。専任の料理人を社員として雇用していたのも個人会社が大きくなった会社ならではだと思いました。
私も何回かご相伴にあずかりましたが社員用カードで支払うので出入り業者は当然ながら利用する事は出来ませんでした。私は普通のラーメンを注文したのですが、その上には料理人が目の前で焼いてくれた海老が乗っており、付け合わせの野菜サラダは食堂の隅にある切った野菜やデザートがおいてある場所から取り放題というようなものでした。会社の規模からすれば費用負担は小さいと思われたので社長の偏見と独断で行われたものだろうと思いました。当然ながらあまりに安いので独身者ばかりか妻帯者も夕食はここで済ませると言う本来の趣旨から外れて利用する人もいたということを聞くと、それは当然だろうなという感想をもちました。
 
こういう社長の意志が会社の運営に影響したのも成長している間だけでした、7・8年後にはリーマンショックで業績が急速に悪化して銀行管理下に置かれると、こういう個人会社的な運営は無くなり、普通の会社になっていきましたが、管理部門の給料の安さは変わることはなかったようです。社員の話を聞いていた時に「嫁さんには給料には文句を言わせない」という強がりをいう人もいたのを聞いたことがあります。
こういう会社なので何時も人材を募集していますが中々良い人材が集まらないのは自然のなりゆきかなとも感じていました。