私がデータセンターの営業をしていて何社かの顧客を受注したのは変わり者の事業部長の時でした。この事業部長については以前の項で紹介したのですが、散々に事業部内の部員を異動させたのが自分に回ってきたのか千葉の奥にある子会社に異動になってしまいました。その後釜に来た事業部長は非常に大人しい人で、その大人しいのは対人恐怖症らしく顧客に行くのを極端に嫌がっていました。自分は内勤だけに注力するというような姿勢でした。私は多くの顧客を開拓した実績を買われていたので何かあれば良く相談にのってほしいと言われました。当時は頭の悪そうな顔をした男が営業部長で、頭越しに直接私に相談しているという事も癪に障るような小人の態度があからさまでした。この時からこの男は私を非常に煙たがっていたのでした。

その事業部長は苗字も一文字は石がついていたので、まさに動かざること山の如しというのが名前通りだなと思っていました。ある意味では賢いとも思え、自分が不得意な事にあえてチャレンジしないのも筋が通っていると思って感心もしたのでした。
この事業部長は悪い人ではなく人はよいので、色々な世間話も盛り上がることもありました。この事業部長は50歳も過ぎていたと思いますが、再婚するということで新築の家を建てたという事でした。
その時近所の人が家を見せてくれと上がり込んで来たので驚いたという話を受けて、私の実家のある名古屋では嫁入りすると家の中まで近所の人が上がり込んで、箪笥の中も全部調べてどんな着物を持ってきたか点検しますよと言うと、件の事業部長は「その人は名古屋の出だと言っていたね」と言って得心するような会話もありました。家の不用品を整理していると「リサイクル屋がブランド物のセーターを100円で買っていくんだね」とかいう生活感あふれる話も聞かされたのでした。
私が転職前の会社では「会社ではうんこしてはいけないとしつけられていました。腹具合が悪いときだけトイレに行けと言われていました。毎朝、自宅で食事をしてうんこを出して、会社では仕事ができる心構えをしてから来いと言われたものです」という訓話みたいな話をすると、以後「今日は腹の調子が悪いからね」と言い訳を言いながらトイレに行っていたのがユーモラスに感じられました。
この事業部長の友人筋を頼って仕事させてほしいという50歳を過ぎた男がきたことがありました。「学校はT大のxx学部で」というような話が聞こえてきました、年配者が学歴を持ち出すのはよほど仕事が出来ずに前職を首になったのだろうと思いました。当然ながら採用はされなかったようでした。
この事業部長はある意味では非常に常識人で羽目を外すことはありませんでした、それで頭の悪そうな顔をした営業部長を「事業部長に推薦したよ」と私に告げたのでした。仕事のできる男と馬鹿な男との区別はついていたようで、同時に私とその男は仲が悪いのを知っていたので、敢えて事前に私に告白して心構えをしなさいということだったかもしれません。
この事業部長は後に母校に技術職で就職したというので驚きましたが、それも終わると人材派遣会社に入社して、「派遣の仕事はありませんか」と言って再び私の前に現れたのには少しながら驚きがありました。元々金持ちなので仕事なんかする必要も無いだろうと思っていたので、余計にそういう人が人材派遣会社に就職したと知って驚いたのでした。