広告会社のコンピュータの移転が終わってから1年程の後に、今度はオフィスの移転が計画されました。狭くて仕事もしにくい環境だったのでオフィスの移転は時間の問題だったかも知れません。古いオフィスだっただけに逆に狭い会議室や打ち合わせ室でも情報システム室員とは顔を合わせる距離が短いので親密に話ができるような気がして、営業マンとしての私には悪い環境とは思えませんでした。水道の配管も古くて水がそのまま飲めないので当時としては珍しい、一斗樽位のガラス瓶に入った水が給水装置が廊下に置いてあるのが印象に残っています。
これだけ大所帯の引っ越しとなれば色々な取引先が絡んで検討も長引いたと思われますが、情報システム部も引っ越しに伴い色々な仕事が出てきてベンダーを決めて行きましたが、未だ新参者の私はオフィス移転の情報を入手するタイミングが非常に遅かったのは自然の成り行きだったと思います。それでも2件の受注をすることが出来ました。それは相手も私の勤務していた会社の事がよく分かっていないという事もあったというのもあったのではないかと思いました。

注文がもらえるようなものが無いかと思っていたら、ある会議の席上でパソコンを新規に導入するという話を聞いて担当者にお願いに行きました。担当者は真面目な薄化粧の30代の女性でした。取引上色々なベンダーからパソコンを購入しなくてはいけないという予定を聞きました、そこで私は他社が扱いにくい新しい米国のパソコンベンダーを扱わせてほしいとお願いしました。その理由は、既存の取引ベンダーのものは私のような新参者が入る余地がないと思ったからでした。そこにもハードルがあって、新しい米国ベンダーを扱うのが当然ながら私の勤務していた会社だけでなく何社もあるので女性の担当者は困っているようでした。私は狭いごみごみした情報システム室の中央あたりに座っていた女性の席まで何度となく足を運んで、席の横に座ってどうでもいいような資料を見せてはお願いをしたのでした。相手もそういう熱意を買ってくれたのか、ある訪問した時「それでは独断ですが、あなたの会社に任せます」と言われた時は非常に嬉しく思ったと同時に、少し身が引ける思いでした。それはサラリーマンという仕事だけの話で済めばよいのですが、この女性が結婚願望があるというのを感じていたからでした。そんなに美人でもなく普通の容姿で真面目な性格の人でしたが、話をしていると目と目があって明日にでもデートに誘ってほしいというような雰囲気があったのも事実でした。この女性は私がそういう気が無いと知ったからかどうかわかりませんが、1年程後に突然結婚しましたという報告を聞かされてほっとして、目に見えない圧力から解放されたような気になったのでした。

この時にノートパソコンとデスクトップパソコンを合計で1000台位の注文を貰いました。同時にセットアップから設置までの作業も全て行うという条件でしたので、ここで事件が起きたのでした。
これほどの量を一度に保管する場所とセットアップする場所が必要と言うので、当時の営業部長に相談すると、たまたま都内の某所にオフィスを借りていて1フロアまるまる空いているという情報を教えてくれました。営業部長が役に立つものだと思ったのはこの時くらいでした。
自分の勤務しているビルとは地下鉄でも1時間位はかかるような場所なので保管が心配でした。だだっ広い部屋に山積にした箱が紛失しないかと心配していましたが、案の定2台ほど紛失してしまいました。お堅い同じ会社の人間しか出這入りできないというフロアだったので、誰かがこんなに沢山あれば1台や2台無くなっても分からないだろうと思ったのかも知れませんが、すべて引っ越し先と紐づけされているパソコンなので1台でもなくなれば足りなくなるのでした。
私の勤務していた会社は、建前は一見非常に厳しいのですが、その実目に見えないところで利権とかがはびこっているような気がしていました。役員にしても実績の無い口先ばかりの連中が並んでいるなと思っていたのですが、そういう会社の雰囲気が山積みのパソコンの中からそっと持ち出すという社員を輩出する背景になっていたのではないかと思いました。