思い込みの激しい部長は、ソフトウエアのパッケージ販売の成功が自分の実力だと信じているらしく、その後も色々な事業に手を出しました。
一番の失敗作はパソコンでホスト計算機のソフトウエアを動かすというものでした。どこからこういう奇妙な話を持ってきたか不明でしたが、営業や技術の組織を作って本格に販売したので、結果として被害を被った会社が出ました。5年くらいは続けたと思いますが、他事業部のことなので最後はどういう後始末をしかたかは不明でしたが、多分その事業部内で後始末の費用処理をしたのだろうと思います。

最初にこの話が社内で紹介されたときに、真っ先に「これは詐欺話だ」と思ったのは私だけだと思います。そもそもホストコンピュータなるものが如何なるものかも知らないで、ソフトウエアがパソコンで動くなどとは常識あるコンピュータの営業マンであれば普通に否定される話だと思いました。しかし社内でも一番の実力者と思われていた部長の発案なので易々と承認されたのだろうと推測しましたが、それに加えて技術力も無い連中の集まりでは反論もできなかったという事情もあったのだろうと思います。
この話が世間に少し流布されると、私の担当していたお客様からも「是非とも検討したいね」といって検討のために製品説明依頼がありましたが、私は即座に「変なものに手を出してはいけません。私は推奨しません」と断りました。勿論その時にはお断りする理由を説明したのですが「安いからね」という未練たらしい言葉もお客様から出ました。
宣伝に乗せられて購入したお客様は当然ながらシステムがまともに動かないので、自然と事業が失敗に終わりました。しかしながら事業を失敗しても、その部長は意気軒昂だったので、普通の神経の人では無いと感じました。
社内ではサラリーマン根性の根の座った連中が役員をしているので、こういう失態は騒ぎを大きくせず内々に納めてしまいたいという気持ちがあって大問題にはならなかったと思いました。それに他人よりも自分が大事という普通の日本の会社なので、被害を受けた会社のことなどもうやむやになったのだろうと推測しました。

それから記憶に残るこの男の大失策は、飲料販売会社の親会社からPR用ビールの無償提供があった席で、この男が飲料販売会社の営業マンの前で「我が社のマーク入りビールを作りましょう」と言ったことでした。酒の勢いでの発言だったかも知れませんが、この言葉を聞いた私はドキッとして「多分これでお客様の信用は落ちる」と思いました。
飲料販売会社は真面目な会社なので軽率な発言には気をつけなければいけなのに、この男は何の考えも無く発言したのだろうと思いました。こうした事を重ねるうちに信用をなくして取引が少なくなるのは自然のなり行きだとも感じました。

この部長は社内で自分の力を誇示するために、事業で儲けた金を使って、社員を研修と称して海外旅行や国内旅行を企画する事がありました。国内の旅行では北海道に行きましたが、この時は他事業部もご相伴になれるというので私も行きました。北海道のリゾート施設で皆が飲んだり食ったりしている時には、私は趣味の写真撮影をした記憶があります。仕事の一環でそういう場所に行っても面白くも無く、短時間で移動するだけの出張の雰囲気だったので殆ど記憶に残りませんでした。

会社に大損害を与えた事や客先の信用を無くすことを堂々としてきたこの部長は、役員で退職するときも社員が大勢集まって謝恩会みたいなことをしていたので、社員の多数の勘違いがすごいものだなあと思って笑えてしまいました。