親会社も新規事業の先行きの雲行きが怪しくなってきた頃には、新規事業をしている小さな子会社を整理し始めました。私の所属していたデータセンター営業グループにも、そういう会社に勤務していたという男が異動になって配属されました。背が高く顔の長い特徴のある顔をしていました。当然ながら、新しい職場での仕事の仕方が分からず、毎日一番廊下に近い席で、椅子にもたれて煙草の煙をたてて過ごしていました。データセンター営業グループでは、1社だけ既存ユーザーの営業を担当していました。1ヶ月に1回、請求書を客先に持参するのが仕事でした。
私は一日中外出しているので、殆どその男が何をしているのかは分かりませんでしたが、社外には殆ど行かないことは分かっていたので、不思議だなと思っていました。

その男が異動してきてから1年後くらいのことだったと思います。後日聞いた話では、電話が事務所にかかってきてパソコンを何十台か見積もって欲しいという依頼があったそうです。当然ながら、その暇な男は漸く仕事が来たとばかりに見積書をせっせっと作り持参したそうです。案外すんなりと注文書をもらえたのでご指定場所に納品したのだそうです。
実は、これからが事件だったのですが、請求書を出そうとすると相手の社長が韓国に行って不在と言われ、何時帰国するかと聞いても返事がなかったと言うことでした。ここから、営業部長と二人で客先の会社に行ったりするようになったのですが、当の社長は不在で事情不明という事態が続きました。何とか連絡をというので、しばらくして電話で連絡が取れて支払うという話になったということでしたが、最終的には金はもらえませんでした。見積書を提出してからかれこれ1年も経過していました。金額的には1千数百万円の代金だったのですが、営業部長は事業部内で内々に処理せざるを得ないことになりました。最後は営業部長が一人で紙ファイルを持って自身で始末を付けました。

この時には営業の中では、与信はどうだったのかとか、相手を何故信用したのかと色々の話がでました。しかし、そういう怪しい相手だというのを見抜くのは営業マンで、自信が無ければ営業部長に相談すべきところを、すんなりと話が通ったので油断したのだろうと思いました。又、相手もこういう人間ならばだましやすいと思ったのだろうと思いました。
普段から大勢の顧客に接していれば自然と人というものが見えてますが、毎日何もすることが無くてかかってきた電話に飛びつくようでは、やはりすきがあったのだと言われても仕方が無いと思いました。
この男もしばらくしてから「故郷の北海道に帰ります」と言って職場を去って行きました。