「おおアンセムよ、死んでしまうとは情けない」

「あなた死んだ人間に情けないとか言いますか」

「しかもスライムに負けるとは情けない」

「あんな酸性ゲル状物質に、土塊の下僕しか使えない術士が勝てるわけないでしょう」

「アンセムのレベルが上がるには、あと770の経験値が必要じゃ」

「そんなもん言われなくても私らは分かるんですが」

「これまでの冒険をセーブするか?」

「それがわかんないんですよ! 何で寝て起きたら時間が戻ってるんですか!?」

「では旅立つのじゃ勇者よ!」

「ちょ、待って、無理だって、あ…なんですかあなた達…え、ちょっと何処連れてくんですか、旅の仲間? 聞いてないですよ、ちょ…ああ~~~!」


話は、一週間前に遡る。


気がつけば知らない家のベッドに居たのだ。

「さあさあ勇者、早く起きて。今日は王様に会いに行く日でしょう?」

「え、あなた誰ですか?」

わけが分からない。

この女性はまるで当然のように私を勇者と呼んだ。

初対面という空気はなく、さながら寝坊した我が子を起こすような。

「早く起きないさい。私の自慢の子。今日は王様に会いに行く日でしょう?」

私の言葉など耳に入っていないかのような発言に、私は眉をひそめた。

この人が誰かは気になるし、私を自分の子と呼んだ理由も分からない。

だがその前に、

「待ってください、あなた自分の子のことを『勇者』って呼ぶんですか? 固有名詞で呼びなさいよ」

「早く起きないさい。私の自慢の子。今日は王様に会いに行く日でしょう?」

ダメだ、まるで話が通じていない。

ちゅーかなんだこの違和感。

この人さっきと同じ言葉を寸分違わず喋ったぞ?

「王様に、会いに行けばいいんですか?」

「早く起きないさい。私の自慢の子。今日は王様に会いに行く日でしょう?」

「…………はい」

「それじゃあ早く仕度をしなさい。ああ、この勇姿をあなたのお父さんである英雄にも見せたかった」

どうやら質問にはイエス・ノーの受け答え以外は通用しないらしい。

それより娘に説明口調でいいのかこの母親。


ともかく、この自称母親の用意した装備を身につけて(あまりに防具の意味を成さない恥ずかしい鎧だったのだが、聞き入れてもらえなかった)、その王様とやらに会いに行く事にした。

思えばこの時点で、私は既に深みにはまっていたのだ。


2Bこんてぃにゅーど。