ちぎれた糸を引きずりながら、
無目的に階段を転がり落ちていくだけの、糸巻きのような生き物。
ふらふらと家々を渡り歩いて、家主の質問に答えたり答えなかったり。
生きる意味や目的を果たそうと四苦八苦している人間たちを
あざ笑うように、ボロをひらひらさせながら、
自分の不恰好な姿を気にする様子もなく、階段を降りていく。
こんな生き物が自分より長生きするかもしれないと考えて、
カフカは苦痛に近い気持ちを覚える。
しがらみや義務の中でも真面目にやっていこうとしているときに、
苦しさの中でも生き続けていく意味はなんだろう、と悩んでいるときに、
そんな生き物がカラカラと階段を降りていく音が聞こえたら、と想像すると、
カフカの苦痛も少しわかるような気がする。
苦痛というよりは、苦痛に近いほどの憧れなのかな、と思ったりする。
オドラデクが近くを転がってゆくとき、
久しく人が住んでいない、古びた木造家屋の、
埃っぽい匂いがするような気がする。