本日の日経の私見卓見より、次世代経営リーダーについて、宇都宮大学データサイエンス経営学部教授 大嶋氏の論考。コルブの経験学習論、修羅場経験の必要性、そしてインテグリティ。共感しながら読みました。
**キーワード**: 次世代経営リーダー、育成モデル、インテグリティー
優れた経営リーダーの不足が問題となる中、未来に向けた後継者育成が重要な使命とされています。日米欧の大企業において、育成モデルは変化しており、従来の階層的なキャリアアップ方式から、柔軟な人材の流動を前提としたものへ移行しています。次世代リーダーの早期選抜や長期研修の導入、異文化経験による価値観の醸成が重要視されており、これらを通じて組織の持続的成長を目指すべきとされています。リーダーには「インテグリティー」が求められ、組織全体での育成モデルの再構築が急務です。
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国や組織をけん引する優れた経営リーダー人材の不足があらわになっている。経営リーダーの現在の使命は持続的な成長だが、未来に向けては後継者の育成だ。だが、少なからぬ権力者たちは権力維持に懸命で、未来の後継者育成はおざなりになっている。次代を担う経営リーダーの育成はどうすれば良いのだろうか。
日米欧の大企業の次世代経営リーダー育成モデルからは大企業だけでなく、政治や中小企業などあらゆる組織への示唆が得られる。
まず時代に合った育成モデルの改善だ。以前は組織内でキャリアを競わせて階層を上げていく「(単純な)リーダーシップ・パイプライン」方式だった。だが現在は、人材の流動化が激しいため、どの階層でも人材の出入りを前提とした「(柔軟な)リーダーシップ・パイプライン」に変化してきている。これを運営する経営者と人事部門の手腕が問われている。
そして次世代経営リーダーの「人材選抜の早期化」と「育成研修の長期化」だ。以前は課長層や部長層から選抜して数週間の研修を受けさせ、その後は困難な業務(修羅場経験)を与えて各自に任せる形式が多かった。現在は適性をみながら入社時から早期に修羅場経験を連続的に与えて成長を促す早期化と、選抜研修・修羅場経験・コーチングなどの組み合わせを2年間提供し、じっくり成長させる長期化の試みが増えている。
さらに多様な価値観を理解し、共創の道を生み出せる経営リーダーとしての社会観と信念の醸成である。そのために、修羅場経験から研修まで全ての活動を統合的に「成長機会」と位置づけ、内省の繰り返しを促す。異文化経験・業務外活動で思い込みを打破する経験が有効だろう。
組織による育成モデルは進化しているが、次世代経営リーダーが自分ごととして組織のパーパス(存在意義)を明確化し、メンバーと共創に向かえるかにかかっている。必須なのは、経営リーダーとしての「インテグリティー(誠実性)」を身につけることだ。そのようなリーダーこそ、組織の持続的成長のために後継者育成に真剣に取り組むことができる。もう一度、社会全体で育成モデルを再構築する時期にきている。