今回はANAの経営戦略とその打ち手について考えてみたいと思います。
※ ここで書くことは私のお仕事とは関係なくやっておりますので、念のためお知り置き下さい。
1. 航空業界の現状
航空業界はここ数年、世界経済・日本経済に大きく影響され、各社ともに非常に厳しい状況にあります。
JALの破たん、また今年1月のスカイマークの破たんなど、ANAの国内の競合他社は軒並み困難な状況に陥っており、事業再生の対応策を講じることが余儀なくされていると言えるでしょう。
一方で世界に目を向けると、様々リスクはありますが、中東勢の勢いが目覚ましいです。
エミレーツ航空を有するドバイ空港には年間7000万人の旅行客が出入りしていると言われています。またカタールやエディハド航空(ガルフ3社と呼ばれる)も好調であり、中東勢の脅威にさらされていると言えるでしょう。
一昔前まではシンガポール航空を有するチャンギ空港がハブ空港として目立っていましたが、
地理的にもアメリカ・ヨーロッパ・アジアいずれも行きやすい中東の空港は今後も成長が見込まれます。
私も南アフリカに行く際に何回かエミレーツ航空、ドバイ空港を利用したがその勢いに圧倒されました。ドバイ空港は、日本の飛行場とは比べ物にならないほど巨大であり、また清潔に保たれています。もちろんDutyショップやフードショップも豊富です。
エミレーツ航空のサービスも素晴らしいです。個人的には、日本の航空会社のサービスレベルが一番であり、海外航空会社は劣るというステレオタイプがありましたが、エミレーツ航空の機内食・キャビンアテンダントの質も含めて、日本の航空会社にとっては脅威です。
グローバルのFSC(フルサービスキャリア)と共に、現在脅威であるのがLCCです。
ANAにもバニラエアやピーチを擁するが、三菱商事・JAL系のジェットスターや楽天と提携し再参入するエアアジア、また徹底的なコスト削減で格安航空券販売を実現する中国の春秋航空など競争が一層激しくなっています。
スカイマークの破たんの背景にも、FSCとLCCの間の価格帯にあったスカイマークのポジションニングが不透明となり、顧客が遠ざかってしまったことも一つの原因でしょう。
その他国内に目を向けると、新幹線が競合相手と定義できます。
このような環境の中で、ANAがどのように発展すべきかを考えていきたいと思います。
2. ANA基礎情報
ANAの基礎情報は下記の通りです。
ここではANAホールディングの情報も含めて書いていきます。
◆ 経営理念とビジョン
経営理念:
安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します
経営ビジョン:
ANAグループは、お客様満足と価値創造で
世界のリーディングエアライングループを目指します
◆ 事業内容
HDはグループの経営戦略策定、経営管理及びそれに付帯する業務であるが、
配下の事業は下記の通り。
- 航空事業
- 航空関連事業
- 旅行事業
- 商社事業 など
◆設立
1952(昭和27年)12月27日
◆代表者
代表取締役社長 伊東 信一郎
※ 片野坂真哉副社長が2015年4月1日付で社長に昇格予定。
◆ 本社所在地
東京都港区東新橋1丁目5番2号 汐留シティセンター
◆ 従業員数
連結従業員数 33,719人(2014年3月31日現在)
※ HDは166人のみ
3. 事業環境分析
外部環境は、冒頭でも述べたので、ここではANAの財務分析結果を中心に説明していこうと思います。まずここ5年の売上高をみるとJALと共に成長傾向にあり、2014年は1兆6千億円の売り上げています。
一方で経常利益は2013年まで増加傾向にあったが、2014年はマイナス成長でした。
JALが1600億円程度の経常利益を出しているの対して、ANAはその4分の1程度の420億円で留まっています。
ANAの原価率は79.27%、販管費率は16.61%、そして営業費用率は95.88%とJALと比べて、非常に高いです。(JALはそれぞれ74.09%、13.17%、87.26%)
JALは破たん後、稲森経営の代名詞とも呼べるアメーバ経営・部門別採算制度を取り、
徹底したコスト削減の意識が根付いたことが功を奏していると言えるでしょう。
一方でANAのこの高コスト構造は何らかのメスを入れる必要があります。
一方で安全性の観点から見ると、流動比率・当座比率ともに健全であり、
キャッシュフローも潤沢である。成長に向けた投資ができる状態にあると言えると思います。
内部環境分析では、今回ANAホールディングの打ち手を考える上で、
セグメント別の事業ポートフォリオ分析をすることにしました。
まずは2014年有価証券報告における各事業の売上高と営業利益は下記の通りです。
航空事業 売上高 1兆3952億円 営業利益 653億円
航空関連事業 売上高 1896億円 営業利益 27億円
旅行事業 売上高 1734億円 営業利益 44億円
商社事業 売上高 1102億円 営業利益 33億円
やはり航空事業が圧倒的な主力です、営業利益率を見ても航空事業が「金のなる木」と言えるでしょう。一方でANAの経営戦略上はノンコア事業である旅行事業や商社事業をいかに成長させるかが経営課題となっており、主軸である航空事業とのシナジーが期待されています。
4. ANAの戦略の打ち手
ではANAの戦略の打ち手は何でしょうか。
まずはANAが2015年1月30日に発表した経営戦略を見たいと思います。
(http://www.anahd.co.jp/investors/data/kessan/pdf/2015_01_1.pdf)
ANAは2025年、つまり10年後を目指して25,000億円(現在17,800億円)の売り上げ達成を目指しています。その為にコア事業である航空事業と共に、ノンコア事業の成長もしていきたいと考えているようです。
まず戦略の打ち手を考える上で、売上向上かコスト削減かについて考えた時に、利益経営と言う視点では間違いなくANAはコスト削減に努めるべきと考えます。
JALをベンチマークとして実行していくべきでしょう。
しかし、本論ではコスト削減策を講じるデータをあまり取得できなかったため、売上向上策を検討したいと思います。
では売上向上をする上で、コア事業である航空事業と、ノンコア事業である旅行・商社事業どちらを考えるべきか。
当初、私はノンコア事業の新規事業案を検討しようと思いましたが、約8000億円の売り上げを積み上げるためには、航空事業を主として考えていくべきと考えました。
次に航空事業においては、国内線を伸ばすのか、国際線を伸ばすのかを検討する必要があります。
国内線に関しては安定した収益源であるものの、新幹線やLCCなどとの競争もあり、どうしても価格競争となっているようです。
ANAの2014年~2016年の中計においても、「あらゆる視点で低コストオペレーションを追求」「自助努力を超えるコスト変動に対応できる運賃政策を推進」「訪日外国人の国内線利用を促進」「羽田の国際線ネットワークとのシナジーを追求」という文言が並び、安全に安く運ぶというのが基本方針のようです。
よって国際線事業への打ち手を考えていきたいと思います。
約8000億円の売り上げを増加するには、単価を上げるか、客数を増やすかのどちらかです。
ブレストレベルでいくつかの施策を考えてみました。
A. ジョイント戦略の継続
⇒ 現在ルフトハンザとのジョイント戦略をANAは組んでいますが、
客数を増やしていくという意味では、スターアライアンス加盟航空会社とより緊密に連携し、
JVという形で国際ネットワークを広め、JALや他の国際線の顧客を奪っていくというやり方があるかもしれません。
B. M&A戦略の実施
⇒ 次に考えるのが、M&A戦略です。ANAの安定的な財務基盤を通して、海外航空会社を買収するというのは一つの打ち手になるかもしれません。
具体的には今後のアジアのニーズを鑑み、EVA航空やアシアナ航空、もしくはシンガポール航空やトルコ航空(かなり背伸び)を買収し、日本のフラグシップではなく、アジアのフラグシップANAを目指していくのもありだと思います。
(ジャストアイディアなどで買収の実現可能性は検討していません)
C. コアコンピタンスを生かす戦略
最後に考えたいのが、ANAの強みを最大限に生かす打ち手です。
上記1&2は売り上げを向上させる施策ですが、本当にお客様が求めていることは何かを再度考えていきたいと思います。
一般的に、飛行機に乗るお客様は「安全であること」「予定通りに着くこと」「利便性が高いこと」「快適であること」を求めると言います。
ANAがグローバルと言う舞台で飛躍する際にも、この原理原則を突き詰めていくべきなのではないかと考えました。
現在の国際線のニーズは、
① LCCのように席が狭く。サービスレベルも高くなくてよいから格安で移動できるニーズ
② 空の旅を満喫したいので、エコノミーのような狭い席は避けたいというニーズ
にわかれると言います。
この②のニーズを捉えて、カタール航空では全席プレミアムクラスのラグジュアリー航空機を導入しようとしたり(2015年2月)、
破綻前のスカイマークでも全席プレミアムシートの快適性のある航空機を導入しようとしていました。
参考:
QATAR AIRWAYS LAUNCHES “PREMIUM ONE” SERVICE WITH THE ADDITION OF AN A319 TO QATAR EXECUTIVE’S FLEET
http://www.globalbrandsmagazine.com/qatar-airways-launches-premium-one-service-with-the-addition-of-an-a319-to-qatar-executives-fleet/
スカイマークの「全席プレミアムシート」投入で航空業界変化の兆し。大手航空会社から「エコノミークラス」が消滅する?
http://tabiris.com/archives/skymark-4/
おもてなしについては天草エアライン
"空飛ぶ三陸鉄道"天草エアラインの変革力
これが地域航空会社の生き残りのヒントだ
http://toyokeizai.net/articles/-/36748
私はこの流れにANAも乗り、空の旅における“日本らしい”究極のおもてなしをする、
ラグジュアリー航空を現在のANAとは別ブランドで追及してみてはどうかと思います。
ANAの強みは、2013年ワールド・エアライン・アワードにおいて、空港サービス全般を評価する「World’s Best Airport Services」(2014年にも受諸)と、機内客室の清掃全般を評価する「Best Aircraft Cabin Cleanliness」の2部門で受賞している通り、日本らしいサービスの高さにあります。そのサービスレベルをソフト・ハード共に向上し、価値をあげていく打ち手の一つとして、上記のトップブランドの提案があります。
5.ANA Top Premiumブランド航空の提案
現在もANAはアジア路線にファーストクラスやプレミアムエコノミーを導入したりと、
高級路線化に努めています。
https://www.ana.co.jp/int/airinfo/promotion/f_py/
しかし、個人的にはこれはビール会社がプレミアムビールを出すようなイメージと似ており、
真のラグジュアリー路線とは言えません。
私はトヨタのレクサスのように別ブランドで、そのブランドにコンテキストを持たせる、
日本の至極の航空ブランド(ANA TOP PREMIUM)を確立してはどうかと思うのです。
これは日本のシニア層や海外の富裕層をターゲットとし、
ハード・ソフト共に「徹底的に和の文化を味わってもらうサービス」を追求します。
また究極のおもてなしをする上で、パイロットやCAも選抜で選び、ANAのエーススタッフを登用する。
このトップブランドを創る意味は、当然単価を上げ、売り上げを向上させることにもありますが、トリクルダウン効果(上流の利益が、下流にも落ちる)を狙えるのではないかと思っています。つまりこのトップブランドで培った教訓を、ANAの一般サービスにも適用させることにより、
相乗的にANA全体のサービス向上⇒ブランド向上⇒売上向上を狙えるのではないかと思っています。(少し古いですがiphone5sとiphone5cとの関係性をイメージしています)
Apple’s new strategy: Trickle-down innovation
http://www.washingtonpost.com/blogs/innovations/wp/2013/09/11/apples-new-strategy-trickle-down-innovation/
※ 経営学の理論上実証されているといいのですが、論文探し中です。
今回のANAのケースは、企業としても成長路線であり、戦略もきちんと作られているので、
自分の意見を出すことに大変苦慮しました。
次回は、製造業の企業分析をしてみたいと思います。
参考記事:
ANAを”なぞる”JALのしたたかな戦略
新年度の国際路線計画がそっくり
http://toyokeizai.net/articles/-/29056
日航と全日空、「MCC戦略」の分水嶺
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140410/262712/?rt=nocnt
ANAグループの 新たな成長戦略と課題
http://www.nihon-kankou.or.jp/home/committees/report/event/20131002_3b.pdf
ANAが「中期経営戦略」を発表。競合はスカイマークとLCC、新幹線を意識。地方空港展開は記述なし。
http://tabiris.com/archives/ana/
ANA HDの戦略 JALの二の舞いになると懸念する声も
http://news.livedoor.com/article/detail/9475195/
トップ交代で攻める世界の空
ANAホールディングス新社長の成長戦略とは
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150217/277635/