進化する教育 「総合力」 偏差値より“考動”
産経新聞 10月14日(木)22時49分配信
【進化する教育】第2部 ものづくり再生(3)
「エンジニアに必要なことって何ですか?」。こんな質問を、金沢工業大学OBの若手エンジニアにぶつけてみた。三菱自動車水島製作所(岡山県倉敷市)に勤務する山●一樹(23)が返した答えは、手先の器用さでも熟練の知識でもなく、「コミュニケーション」だった。
「技能や知識は先輩に聞いて身につけることができるけど、コミュニケーション能力がなければ、それ以上、何もできない人間になってしまう」
山●は金沢工大工学部を卒業後、平成21年4月、三菱自動車に入社。水島製作所で車の外板部品(ボディー)を形づくる金型を製作する業務に携わっており、現在は、新たに開発する乗用車のボンネットをプレスするための金型づくりを行っているという。
「試作品ができたのでプレスしましたが、少しヒビやひずみができてしまって。現場の職人さんに『丸みを出すために何ミリ金型を削ってほしい』とかお願いしているんです」
親子ほど年齢の離れた職人に指示を出す。気を使う毎日だが、「職人さんはこだわりもありますが、その分技術力も高い。よく相談させてもらって仕事ができています」と笑う。
山●はこうしたコミュニケーション能力を、金沢工大での4年間で身につけたという。それは、現在のわが国のエンジニアに求められる素養でもある。
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日本機械工業連合会が今年3月にまとめた「機械工業高度化に必要とされる技術系人材像に関する調査研究」には、技術者に求められる能力の一つとして「課題発見・設定・解決能力や、なぜを反復・考究する力とその習慣化」とある。
報告では、わが国の生産技術をめぐり「少子高齢化や学生の理数系離れ、グローバル化と海外現地生産の拡大」が進んでおり、環境は厳しさを増していると指摘。このため、ものづくりは一層の高度化が求められ、専門技術の知識とともに、想像力や構想力、課題解決力などを持つ人材確保が不可欠だとしている。
自ら考えて行動するエンジニア。金沢工大が一連の改革で発展させてきた教育理念と同質で、時代が金沢工大に追いついてきたともいえるかもしれない。
それだからだろうか、金沢工大の就職内定率はここ数年、95・4%(平成22年卒)▽99・5%(21年卒)▽99・8%(20年卒)-と驚異的だ。
「学生の評価は、ペーパーテストは100点満点中40点まで。残りの60点は実習や課題。なぜか。ありていに言って、偏差値は関係ないから」。金沢工大副学長の久保猛志は、きっぱりと言い切る。「技術者にとって、偏差値で測れる学力は必要ではない。求められるのは、技術を通じて世の中に役立つ人間になれるかどうかだ」。久保は、工業系学生を育てる基本方針、エンジニアに求められる能力として「総合力」を挙げる。
13年に卒業し、現在は蓄電池大手「GSユアサ」の子会社「ユアサエンジニアリング」(京都府福知山市)で生産設備の設計・製作を担っている大(おお)●(すみ)輝(32)も、学生生活で「総合力」が身に付いたと実感している。
「答えのないことにチャレンジする術(すべ)を学んだ。社会に出ると、中学や高校のテストのように答えがあることばかりじゃない」
自分の頭で考え、行動するエンジニアを育成する。金沢工大の取り組みは成功したように思えるが、久保はこう付け加えた。
「改革した内容は本当に定着しているのか。この15年間は成功だとしても、今後はどうなのか。1周先を考えなければならない」
金沢工大の改革は続く。(敬称略)