横尾忠則はアート界にとっては特別な存在。それはスタートがグラフィックデザインだったことが大きく影響している。
この書によると「不本意ながら」(本人はそのつもりではなかったのに、そう報道されてしまった)
「画家宣言」をした1980年代以降、本格的にアート界の人になる。
もっとも本人には、ここまでがグラフィックで、ここからアートというような明白な区別はなかったよう。
依頼があって表現するのがグラフィック、なくて、自分で描きたいと思うのがアートという程度。
個人的に横尾忠則を意識したのは70年代。テレビドラマ「時間ですよ」のタイトルバックを横尾忠則が担当していた。
この本にも何度も登場するウォーホールのように横尾忠則はアートをベースにマルチに活躍するトリックスターだった。
このドラマでは、タイトル画を担当するだけでなく、自ら、飲み屋の客役で出演もしていた。
この本の最後の方で登場するのが、映画監督の黒澤明。仕事上の付き合うではなく、プライベートの付き合いがあったそうだ。
ご近所付き合いのようなものだと、語っている。横尾が黒澤邸をふらっと訪れて、何時間も他愛ない会話をしたのだという。
もちろん、横尾忠則は黒澤映画が大好き。中でも一番好きなのは「夢」。世間的には黒澤映画としては評価の低かった作品。
しかし、黒澤が幼い時から画家になりたかったという想いが、思い切り表現された映画。
横尾だけでなく、今になると、あの絵画的な世界を再評価する声もある。
横尾と黒澤は画家を目指しながらも、違う芸術で評価されて、成功したという共通点もある。
それにしても、横尾忠則の人好きがわかる広い交友関係。