めちゃくちゃ面白い!長部日出雄の「天才監督・木下恵介」②国際的な評価がない理由 | con-satoのブログ

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 作家、映画評論家、かつ映画監督でもある長部日出雄が書いた「天才監督・木下恵介」。映画への知識の深さ、ほぼ同時代に木下作品を観ている強み、そして作家としての洞察力で、格別な評伝になっていた。

 国際的に評価を受ける黒澤、小津、成瀬と同時代の映画作家なのに、なぜか海外では評価されていない木下恵介。その一因は海外の映画祭で大きな賞に輝いていないこと。この評伝を読むと、ベネチアでグランプリを獲得するチャンスがあったと知った。

 その映画は木下の代表作の1本「楢山節考」。コンペに選ばれて上映された。しかし、その年、グランプリに輝いたのは同じ日本映画の稲垣浩監督の「無法松の一生」だった。これは1943年に阪東妻三郎が主演した映画のリメイク。この時の監督も稲垣浩。このグランプリ作品は三船敏郎でリメイクされた作品。映画史的に見れば「無法松」といえば阪妻版で、三船版という人は少ないのではないか。海外の人は阪妻版を知らないし、当時、黒澤作品で海外でも有名だった三船の存在が大きかったのではなかったかと長部は書いている。しかも、木下作品を製作した松竹は「年寄りを山に捨てる映画」を海外に紹介するなんて恥かしいと、この映画祭の参加に消極的で、木下さえ現地に行く機会がなかったそうだ。(「無法松」の東宝は社を挙げてプロモート)

 もし、この時グランプリを獲っていたら、今ならパリのシネマテークや名画座で「木下恵介」特集が組まれていただろう。この「楢山節考」のリメイク作品。83年の今村昌平監督作品はカンヌでパルムドールに輝いていることも運命の皮肉だろう。

 パリの名画座では小津、黒澤、成瀬特集は定番のように上映されている。写真は、パリを代表する名画座カルチェラタンにある「CHAMPO」。この時は黒澤の「乱」が上映されていた。ここで木下映画を観たい!パリジャンに天才・木下を知って欲しい。