知り合いのいる銀座のギャラリーに寄ると、ちょっと見て行けという。
なにかおもしろいものでもあるのだろうと思ったら、古めかしい箱が出てきた。
するすると紐を解くと、直径10センチに足りないほどの白磁の碗である。
相当に古い。見ただけで骨董品だとわかる。
「金なんだ」という。むろん、中国の金王朝のことである。
宋王朝を華南に追いやった王朝だ。つまり、12~13世紀。
古いなんてもんじゃない。
手に取って、つくづくと眺めてみた。
12世紀ごろの宋磁を手に取ってみるのは、初めてである。
もちろん美術館やアートフェアで見る機会はいくらでもあった。
ただ、単に目で見るのと、触れてみるのとでは、やはり見えるものが違うのだ。
磁土というにはそれほど精製されていない土が、高台に覗いている。
まだ少し半磁土みたいだね、と、眺めながら言ったら、
釉薬も少しマットだから、全体にやわらかい感じがするだろう、と言う。
かたちは整っているが、材料や釉薬は少し素朴だ。
すこしクリームがかった、滑らかな陶肌である。
すうっと流れていきそうなカーヴをしている。
現在においては使う代物ではあるまいが、当時は何を注いだのだろう。
「葡萄の美酒 夜光の杯」と詠んだのは王翰だったか。
中国は酒の名に色がある。白酒、黄酒。
しかし、いまでいうプーアル茶だったかもしれない。
すこし想像が遠くへ飛ぶ。
ひといきついて、碗を卓の上に戻す。
もう一度、眺める。
「おもしろいね。でも、私は骨董には手を出さないんだ」と言うと、
知ってるよ、といって、片づけ始めた。