前回、「武満のCDを買ったときに少し疲れていた」と書いた。
実際に、体力的に疲れている自覚はあったのだけれど、
時に、人間は思いもよらないところで疲れを溜めているらしい。
国際政治の研究という職業柄、「普通は見たくないもの」をよく見る。
たとえばそれは、10歳にもいかない少女が自爆テロをさせられたという、
想像したくもない「現実」であったり、
軍の包囲にあって餓死寸前の人々についての報告書だったりする。
それらのなかには、目を覆いたくなる画像や映像も含まれる。
知らず知らずのうちに、そういうものは、やはり精神を疲れさせる。
それが先日、どっと湧いた。
「死んだ男の残したものは」。
武満のたぶん、最も有名な合唱曲だろう。
作詞は谷川俊太郎で、武満は一日ほどで書き上げたらしい。
死んだ子どもの残したものは
ねじれた脚と乾いた涙
他には何も残さなかった
思い出ひとつ残さなかった
この曲は、重苦しい歌詞なのに、音楽は沈鬱ではない。
とても美しいと言ってよい。
しかも、三拍子である。
ナイジェリアに、ボコ・ハラムというテロ組織がいる。
周辺国と協調した多国籍軍が、この掃討を行っている。
データを整理しながら、CDをかけていたら、この曲になった。
突然、何の前ぶれもなく、歌詞が耳に飛び込んできて、
(その前の曲まで、歌詞はろくに耳に入っていなかった)
どばっと涙があふれた。
ああ、疲れているんだ、という自覚症状。
そして、そりゃそうだな、とも思った。
そこから二日ばかり、まったく自分の頭が使い物にならなかった。
だけれどたぶん、この曲がこうやって助けてくれたんだろう、と思う。
疲れないわけがないのだ。
