毎日名盤第151回 プレートルの「スカラ座における最後の演奏会」を聴く | Eugenの鑑賞日記

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 《スカラ座における最後の演奏会》 プレートル指揮 ミラノ・スカラ座管 ドイツ・グラモフォン 2016年ライヴ

 去る8月14日は、プレートルの誕生日であった。1924年生まれの彼は、2008年、2010年にウィーン・フィルのニューイヤーコンサートに登場し、名演を披露した。また、長く歌劇場でも活躍し、スカラ座とも密接な関係を持っていた。

 今回ご紹介するこの演奏は、スカラ座との最後の演奏会の模様の録音である。2016年2月22日、この日がプレートルのスカラ座における最後の演奏会となった。斬新かつ自由自在なパフォーマンスで聴き手を魅了する彼だが、この日の演奏会でも、それは健在、そしてどこか名残惜し気な表情がみられるのは気のせいではないだろう。

 冒頭のベートーヴェンの《エグモント》序曲は、最初の和音から92歳のプレートルの生命力を感じる。ここに最後の闘志を全力で燃やすプレートルの姿がある。とりわけ、輝かしいコーダでは、雄大なクライマックスを築き上げ、感動的である。続くヴェルディの《運命の力》序曲も、老兵が昔の思い出をしみじみと語るような味わいがあり、音楽は時に哀しく、過ぎ去った青年時代の記憶を呼び起こすようである。オッフェンバックの《舟歌》に関しては、もはや天国的ですらある。もともとこのような陶酔的な音楽がよく似合うプレートルだが、この演奏は、地上の音楽とは思えないくらいに美しい。そして、極めつけはラヴェルの《ボレロ》。しゃれっ気たっぷりでかなりリズムを崩した感じだが、打ち上げ花火のような、つかの間ながら絢爛とした音楽が聴き手の胸を衝く。そして、万雷の拍手の中、アンコールはオッフェンバックの《フレンチ・カンカン》。マエストロ特有の明るさと熱狂はそのままに、なんと名残惜しい音楽だろう。チャイコフスキーの《悲愴》の第3楽章にも似た、明るくも切ない味わいを感じる。プレートルは、明くる年の2017年1月4日、天に召された。

 演奏 ★★★★★

 録音 ★★★★☆

 総合 ★★★★★