毎日名盤第42回 ガヴァッツェーニのヴェルディ《仮面舞踏会》を聴く | Eugenの鑑賞日記

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 ヴェルディ 歌劇《仮面舞踏会》 ガヴァッツェーニ指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団及び合唱団、アメリアーカラス、リッカルドーステファーノ、レナートーバスティアニーニ、ウルリカーシミオナート、オスカルーラッティ他、旧EMI、1957年ライヴ

 ヴェルディのオペラの悲劇性は、僕は個人的に好きである。なぜなら、救いようのない結末に至ろうと、音楽は太陽のさんさんと照り付けるイタリアそのもので、サウンドが明るいからだ。《トロヴァトーレ》は、凄絶な復讐劇だが、それよりも、第3幕開始のコーラスなどの楽しさが勝る。あるいは、《ラ・トラヴィアータ》も、幕切れはなんとも言い難い悲しさだが、第1幕などは人生の喜びそのものである。この《仮面舞踏会》とて例外ではない。主人と妻の不倫に激怒した秘書が、主人を倒すという物語だが、同じ不倫話でも、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》のような粘着性、重苦しさがなく、第3幕の仮面舞踏会に向かうリッカルドの覚悟も潔い。音楽的にも、第1幕のリッカルドのロマンツァや、レナートのアリア、ウルリカの占いのシーン、第2幕のリッカルドとアメリアの二重唱、第3幕の復讐を期すレナートの怒り、リッカルドのアリアと充実しきっており、不足はない。

【あらすじ】第1幕 ボストン総督リッカルドは、秘書レナートの妻アメリアに思いを寄せている。レナートはこのことに気づいてはいない。判事が占い師ウルリカを解雇するように要求するが、ウルリカと仲の良いオスカルの擁護もあり、リッカルドは逆に彼女のところに占いをしてもらいに行く。ウルリカのもとには、なんとアメリアもやってきて占いを求めたのだが、リッカルドは、物陰でアメリアが、リッカルドへの恋に悩んでいることを盗み聴いていた。リッカルドが占いを頼むと、なんと親しいものに殺されるという。しかも、「最初に握手した人」に。その人こそ、何も事情を知らずにリッカルドのもとへやってきて手を握った秘書レナートであった。しかし、リッカルドは、占いは間違いだと笑う。

 第2幕 アメリアは、ヴェールをかぶって、先ほどの占いで指示された通り、死刑台に生える薬草を摘んでいた。そこへリッカルドがやってきて、二人は愛を互いに打ち明ける。そこになんとレナートがやってきて、反逆者が近づいているため、自分が身代わりになるから逃げてくれ、と告げ、リッカルドは逃げてゆく。反逆者たちがやってくるが、リッカルドが逃げたことを知り、腹いせに彼の愛人の顔を見ようとアメリアのヴェールを剥ぐと、レナートは自分の妻がリッカルドと不倫していたことを知り、激怒。復讐を期し、反逆者サミュエルとトムの二人に、明朝屋敷に来るよういう。

 第3幕 レナートは妻に死を命じる。妻はこの要求を受け入れるが、子どもに別れをさせてほしいと頼み、レナートは受け入れる。レナートは幸福だった結婚生活を懐かしむ。反逆者たちがやってきて、計画を練るが、暗殺者はくじ引きの結果レナートに決まる。そこにオスカルが仮面舞踏会の招待状を持ってやってきたため、この場を利用して暗殺を決行することにする。一方のリッカルドは、レナート夫妻を本国に返し、アメリアを諦める決意をする。仮面舞踏会でリッカルドの暗殺が企てられていることを知るが、逃げることを嫌ったリッカルドは、舞踏会へ向かう決意をする。舞踏会で、リッカルドは扮装している。レナートは、オスカルにこの扮装をききだし、リッカルドのもとにやってきて刺してしまう。リカルドは、アメリアが潔白なことを告げ、またレナートを本国に返し栄転させる辞令を差し出し、事件の関係者を赦すことを告げると息を引き取る。

 【演奏について】 今回ご紹介する演奏は、ガヴァッツェーニ指揮のミラノ・スカラ座ライヴ。アメリア役のカラスは言うまでもなく素晴らしいが、特筆すべきは、オスカル役のラッティの可憐さ!この声に思わず惚れてしまった。第1幕、第3幕の両方でそのかわいらしい声が聴ける。バスティアニーニの歌うレナートは重厚でまっすぐなキャラクターである。少し立派すぎるかもしれないが。リッカルド役のステファーノの第2幕の二重唱や、第3幕のアリア、幕切れなどいずれも潔いし、男の中の男という感じの歌唱である。スカラ座のライヴとだけあって、大盛り上がり、ガヴァッツェーニの指揮はやや粗削りな感が否めないが、燃え上がって歌手たちを煽り立てており、臨場感たっぷりだ。興奮した聴衆たちは、しばしば最後の音が鳴り終わる前に拍手を始めるが、スカラ座ではかつて桟敷席からなんでも拍手やらヤジやらがよく飛んでいたとのこと。昔のスカラ座は、サクラとアンチの戦いだったようである。それはそれで面白いではないか、と思えるが。

 演奏 ★★★★☆

 録音 ★★★

 総合 ★★★★★