国際芸術祭あいち2025 灰と薔薇のあいまに
愛知芸術文化センター
2025年10月12日(日)
国際芸術祭の名にふさわしい世界をテーマにすえた芸術祭でした。芸術監督フール・アル・カシミがつけた「灰と薔薇のあいまに」とはモダニズムの詩人アドニスの詩に由来します。
枯れ木に花は咲くのか
灰と薔薇の間の時が来る
すべてが消え去り
すべてが再び始まるときに
灰とは破壊、薔薇とは創造と解釈するとわかりやすいです。灰という言葉の中には、近現代の中東における不幸や悲劇の歴史が含まれます。創造の前には悲劇的な破壊がある、対極の概念は不幸な過程が仲立ちするものなのか?
フール・アル・カシミは、そんな単純な二項対立ではない道筋をアートを通して見出せないかと問うています。世界中から選ばれた作家、作品はテーマに合っていて、良い仕事をしたと思います。
今回、会場は3カ所にわかれています。
- 愛知芸術文化センター
- 愛知県陶磁美術館
- 瀬戸市街
A03 ムルヤナ
廃棄される余った毛糸を使い、手編みで作った海の生き物たち。その数がとにかく半端ない。会場を埋め尽くして展示スペースに海中の世界を再現しました。
こちらの壁の白い珊瑚も白い毛糸で縫ったもの。白は死んだ珊瑚です。奥に見えるのは鯨の骨。海の環境破壊は色々な課題があります。開発による破壊もあれば、気候変動による海温の上昇、廃棄されるゴミ、漁業による海洋資源の減少など。
生命あふれる豊かな海から死の海まで、圧倒的物量であるべき海の姿を問いかけます。
A04 杉本博司
次の展示室は日本人アーティストの作品の選択が素晴らしい。杉本博司の博物館シリーズと、戦争によって動物を処分した動物園に代わりとして描かれた動物絵画を展示しています。
博物館の剥製、動物園の動物の絵画、人間の都合でもっともらしく作られた動物たちの世界。乱獲といった行為でなくとも、人間はどこかで生物を自分たちのいいように扱っているのかもしれません。
A10 アフラ・アル・ダヘリ
コンクリートという固い素材を用いて、柔らかい形状のものを作りあげています。洗練された表現でものの見方、常識を問う作品です。
A09 大小島真木
生命の連鎖を描いた大作、のようですが、よく見ると人間ではなく毛むくじゃらキメラたち。単なる空想の世界なのか、それとも未来の人類の姿なのか。そしてそれは幸せな世界なのか。
これは床に置いてある作品。土のブロックに日本語と英語の文章が記されています。土地に関する文学作品からの引用です。そばに置いてある顔の焼き物から植物が生えています。先人の思想から次なる思想が芽生えている。そう思えばポジティブですが、土となり養分となった顔の表情は幸せそうでしようか。
A11 諸星大二郎
諸星大二郎は漫画家ですが、その独特の世界観はアート作品と一緒に展示しても違和感がありません。芸術監督のフール・アル・カシミはどうやって諸星大二郎にたどり着いたのでしょうか。ここに描かれた空想の世界は混沌の世界に生きる私たちに重なっても見えます。
A12 山本作兵衛
明治生まれの炭鉱労働者、山本作兵衛は炭鉱の暮らしを絵にして残しました。総数は1000点を越え、日本で初めてユネスコ記憶遺産の登録を受けたことで有名です。学者でもアーティストでも記者でもない、現場の人間が創り出したものの力強さに感銘を受けます。
A13 川辺ナホ
エネルギーをテーマにしたこんなキレイなインスタレーションを見たのは初めてです。碍子、銅線、炭、電球、素材は本格的。山本作兵衛の生々しい炭鉱の絵と強烈なコントラストをなしているのも面白い。
A14 ダラ・ナセル
ノアの方舟のノアの墓といわれる場所が世界に3ヶ所あるそうです。それぞれ異なる建築技術で作られています。
- ドーム
- 土嚢
- 版築
この作品はこれら3つの技術を使って制作しています。旧約聖書の破壊と創造の言い伝えの遺産を改めてアートで再現しています。といっても墓ですが。
A15 バーシム・アル・シャケール
これはアーティスト本人が空襲を受けた時に見た空のイメージを描いた作品です。知らなければ、ただただ美しいとしか思わないでしょう。美しいものは、美しい。それが何であれ。時にそれは残酷な真実です。
A16 ハラーイル・サルキシアン
世界には国際紛争などの結果、破壊されたり、アクセスできなくなってしまった文化遺産があります。失われた遺跡の品々を資料から探し出し、博物館の展示のように並べた作品です。国家や民族のアイデンティティでもあるものを如何に守り伝えていくのか。ここにアートができることがあります。
A17 小川待子
鉱物の原石、自然のままの美しさにインスパイアされた作品です。宝石や貴金属の人工的で純度の高い輝きより、土の中から飛び出た水晶の輝きこそ、既に自然の中で完成している美という気づきを、アーティストが形にしています。
A18 シルビア・リバス
A19 プリヤギータ・ディア
インドネシアのゴムの木のプランテーションをテーマにした映像した作品。展示室内に、木材とゴムで組み上げたシアタールームを作り中で上映しています。天然ゴムなのでラテックスアレルギーについての注意喚起の紙が貼ってありました。
植民地時代に作られたプランテーションは一大産業となりますが、環境破壊や歪な産業構造という問題を起こしました。作品はCGを使い、人工的な森林の姿、そしてそれが燃え上がっていく様を描いています。
A23 クリストドゥロス・パナヨトゥ
美術館の屋外のエリアにつくられた薔薇園です。薔薇は花屋で売っている主たる園芸の品種です。そのため美しい花が咲くよう品種改良もされてきました。ここにある薔薇は、品種改良の結果がうまくいかず花があまり咲かなくなってしまったものです。それでも薔薇は薔薇。取り残されたものたちの花園にあなたは何を見ますか。
A21 カマラ・イブラヒム・イシャグ
植物にまつわる作品が、続きます。これは作者の住む国の言い伝えを元に描いた作品です。詳細は忘れてしまったのですが、人が根となって木が育っていくという絵だったと思います。こういう絵を見ると世界各地の伝承に基づく作品には新しい表現の可能性がいくらでもあると感じます。
A20 浅野友理子
日本の地方の生活に取材した絵を描いています。農作物が育てられ、収穫され、調理されるまでの長いプロセスをディテイルまで詳細に1枚の絵に描いた作品です。日本画には古くから植物を描く伝統がありますが、描いてこなかった植物がまだあったのだなと気づかされた作品です。生活に根差した絵は見ていて飽きません。
A22 ロバート・ザオ・レンフイ
シンガポールのあちこちにいる動物たちを撮影して都市化していく土地の変化とそこに生きる動物たちの姿をとらえたインスタレーションです。あんな人工国家にも四つ足の大型の野生動物がいるんですね。
A25 ムハンマド・カゼム
開発が進むドバイで活躍するアーティスト。青や黄色の旗はアーティストが立てた作品ではなくて、開発場所の目印として立てられているものです。日進月歩で変わりゆく地域の様子を巧妙にうまく切り取った作品です。
A27 バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメ
中東の民族の踊りの映像、歴史上の事件、それを想起させる言葉を散りばめたインスタレーション作品です。多様な民族と文化、伝統と革新、紛争、混沌。ある意味、日本人が中東に抱くイメージに近い。
A29 是恒さくら
日本における鯨をテーマした作品です。鯨が日本において資源としてどのよう活用されてきたかを丁寧に織り込んだ綺麗な作品です。
鯨を巡っては世界と日本の価値観の違いが顕著です。この芸術祭では鯨を取り上げている海外の作品が他にありました。どちらかと言えば否定的やニュアンスが感じられました。どちらの作品も黙って(?)展示して、見るものに解釈は託す。良いスタンスだと思います。
1日目はそろそろ終わります。作品数が多いので、開館と同時に入っても、見終わるのに夕方までかかりました。映像作品に長いものがあるのでしょうがないです。
この後、夜にパフォーマンスを見て、2日目は愛知県陶磁美術館と、瀬戸市のまちなかを周ります。
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