幕末土佐の天才絵師 絵金

サントリー美術館

2025年9月25日(金)



土佐の絵師、絵金。


名は知っていたものの実物を見る機会がなくて期待半分で見に来ました。それが展示の一点目の絵から気に入り、見入ってしまいました。いきなりこんな長時間立ち止まったことは初めてです。



12  伊達競阿国戯場 累

だてくらべおくにかぶき かさね


これがその絵です。

撮影はNGでしたが、ミッドタウンの別フロアのギャラリーで展示されていた複製は撮影OKでしたのでそちらをあげました。右側の女性は展覧会のポスターにも使われています。


いわゆる芝居絵です。実物はもっと鮮やかです。浮世絵でよく見る芝居絵は、描き込みが過多で何がどうなっているか見にくいことが多い。しかしこちらは二曲一双の正方形の画面にうまく収まっていて見やすく、大きいので臨場感もあります。


場面はとにかく修羅場。どういう状況?というくらい、ややこしい。登場人物は6人。


  • 中央で男の胸ぐらをつかみ、醜い形相で口に赤い衣の袖をくわえた半狂乱の女が累(かさね)。 
  • 胸ぐらをつかまれている左の男は夫の絹川谷蔵。累の姉で遊女の高尾を、主君の命で殺害している。 
  • 高尾は絹川谷蔵の主君の愛人だった。 
  • その主君の許嫁の歌方姫が右側の赤い衣を着た女。妻になるのが嫌でこの家に逃れて来た。
  • 左上のほおかむりの男、金五郎は歌方姫を売り飛ばそうと企んでいる悪人。 
  • 奥の方で笠を被り旅に出ているのは、累の実家の豆腐屋三郎兵衛


累は、絹川谷蔵に怨みをもつ高尾の怨念によって醜い顔に変えられ、訪れた歌方姫を見て夫との関係を疑って嫉妬に狂い暴れています。

最終的に絹川谷蔵は足元に落ちている鎌で累を殺害します。


要点だけ聞くと誰も幸せにならないひどい物語です。それでもエキセントリックな場面を強調する鮮やかな色彩、過剰な情報を見やすく整理した構図で、グイグイ引き込まれる魅力があります。



1  浮世柄比翼稲妻 鈴ヶ森

うきよづかひよくのいなづま すずがもり


左の若い男は白井権八、雲介(くもすけ)に絡まれ父を侮辱され、キレて暴れてまくっています。たった一人で多くの輩を相手にする見事な太刀捌きに、感服した男が割って入ります。


「お若えの、お待ちなせえやし。」


血まみれの現場にたまたま居合わせたこの男こそ、江戸の町奴(まちやっこ)の親分にして男の中の男と呼ばれた幡随院長兵衛(ばんちょういんちょうべえ)です。


二人の狭客の出会いの場面。狭客は、現代でいうヤクザ。アウトローながらヒーローでもありました。秩序を踏み倒してでも己を貫く痛快さが堅苦しい身分制の社会で人気があった理由でしょう。「浮世柄比翼稲妻」は鶴屋南北作の歌舞伎です。




土佐の絵師、金蔵は狩野探幽の流れをくむ駿河台狩野派に絵を学びました。少し時代は遅れますが河鍋暁斎とは兄弟弟子にあたります。土佐藩で活躍し、多くの芝居絵を残しました。



年に一度、夏祭りの時に絵金の屏風絵は神社や家の軒下に飾るようになり、今日まで続いています。



今回絵金の絵が半世紀ぶりに高知を出て東京にやってきました。ただの展示ではなく、祭りの雰囲気が伝わるような展示になっています。



とても良くできているので絶対実物を見た方がよいです。



もちろん、高知に行って見るのがなお良いと思います。そうは言ってもなかなか大変でしょうから、この機会にサントリー美術館に観に行くことをオススメします。


私の中では、高知の絵金は行きたいリストに入りました。


 

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