没食子インク:最も広く使用されたインク。カシやブナの表面に生じた虫こぶ (※) より抽出した没食子液(タンニンを含む)と硫酸第一鉄 (硫酸に鉄を溶かしてつくる)を主原料とする。インク色は当初、青や黒であるが、次第に褐色に変色する。
※卵を産みつける虫の分泌液に反応し、植物組織が異常発育してできたこぶ
かねてから西洋の素描はどうして墨でなく褐色が多いのだろう?という素朴な疑問を抱いていました。
「没食子インク」なるものを使っていると知ったものの、虫のこぶとか謎の説明でよくわからなかったのですがこれだったんですね。
さて、スウェーデン国立美術館が所蔵する一級品の素描の展覧会です。紙に描いたものがほとんどなので国外に輸送するのは困難なものを、そこは信頼の日本の運送会社。無事に日本に運んでくれました。
素描はおおよそ歴史順、イタリア、フランス、ドイツ、ネーデルランドの順番で展示しています。
素描は写真では再現できません。油絵だって写真で再現できませんが、素描の方がよりデリケートです。私の感想と合わせて、その魅力が伝われば良いのですが。
イタリア
15世紀から16世紀。ルネッサンスからマニエリスムくらいまで。ダ・ヴィンチやミケランジェロの素描はありませんが、幅広くおさえています。
ポントルモ(本名 ヤコポ・カルッチ)
女性の肖像のための習作
肖像画のための素描です。まずはよく見ること。とにかく顔です。
フェデリコ・バロッチ
後ろから見た男性の頭部
肌色のパステルの発色の良さにハッとします。油絵の混じった絵の具より、顔料を直接擦りつけるパステルの方が色の純度が高い。そんな描きこまずともこれだけの立体感と生々しさ。
バルトロメオ・バッサロッティ
右腕と手の習作
右手で杖をつかんだ。
文章ならこんなに短いことも絵にするのは大変です。筋肉、腱、骨、関節、皮膚、人間の身体は複雑です。美は細部に宿る。観察と修練、素描はその生々しい痕跡が見てとれます。
ルカ・カンビアーゾ
羊飼いの礼拝
西洋ならではと思うのは明暗の素描。暗がりで光を放つ赤子のイエス。その設計図。薄く塗った影でも充分に光を感じます。
ドメニコ・ティントレット
ヴァルギニアの死
フランス
ジャック・カロ
カピターノ(或いは恋人役)、連作<3人のパンタローネ>より
エッチング、エングレーヴィングです。ここまでしっかり作り込んだ版画を素描と呼ぶのは違和感が有りますが、関係者に配布するための資料か、演劇のパンフみたいなものでしょうか。
ルネ・ショヴォー
テッシン邸大広間の天井のためのデザイン
ドイツ
解説には肌の陰影も平行線で描いていると書いてあったのですが、全然見えない。おそろしく繊細なタッチか解説が誤っているのか。デューラーは肖像画の鬼のような人なので、デッサンも容赦ない感じです。
ハンス・バルドゥング・グリーン
下から見た若い男性の頭部
ネーデルランド
ペーテル・パウル・ルーベンス
アランデル伯爵の家臣、ロビン
見た瞬間、ルーベンスだとわかるのは何故なんでしょう。完成のイメージがハッキリわかる素描です。
王の画家にして画家の王、さすがです。
ヘンドリック・ホルツィウス
自画像
顔だけならもう完成品です。自画像だから顔だけ描きたかったのでしょう。服は真面目に描くと大変だから。
バルトロメウス・ファン・デル・ヘルスト
バウリュス・ポッテルの肖像
太い線がいいです。どのくらいの時間で描いたのか興味があります。速い人は本当に速い。
レンブラント・ファン・レイン
キリスト捕縛
キリストが光って見える。iPhoneが勝手に明暗を強調しているせいか画像は明るく見えますが、実物はもっとボヤッとして大雑把です。人体の陰影、明暗はほぼつけていない。この小さな画面で褐色のわずかな差だけなのですが。さすが魔術師です。
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