ますむらひろしの銀河鉄道の夜ー完結編
八王子市夢美術館
2025年7月27日(日)
ますむらひろしは宮沢賢治の作品に魅了された漫画家です。多くの宮沢作品を漫画化していますが、中でも「銀河鉄道の夜」は特別です。
ますむらひろしの漫画では登場人物はみな猫になっています。この猫たちは宮沢賢治の世界とどうしてか相性がいい。賢治のあの文体、丁寧で、説明的で、くどいようでありながら、心地よいリズム感で表現される登場人物たちは現実世界の人間とどこか違う。目の前に現れた時に猫の顔をしていたら納得しそうな気がします。(賢治がどう感じるかはわかりませんが。)。
原作は未完成の小説。宮沢賢治は出版の後も推敲を続け早逝したため、今日、1次稿から4次稿まで存在しています。最近流行りの「世界線」とでもいいましようか。結果的にますむらひろしも、何回も漫画化することになりました。
今回の展覧会は4次稿を元にした作品が完結したタイミングでの開催となります。
「世界線」といえば、ますむらは賢治がボツにした原稿も漫画化して展示しています。来場者は正式には出版されなかった話も別順路で読むことができるという、ゲームのような構成になっています。
さらに展覧会の見どころのもう一つが、彩色原画を見ることができることです。ますむらひろしの漫画の彩色はすべて奥様の増村昭子が担っています(増村昭子は元少女漫画家。)。宮沢賢治が難解な修飾語で綴る色を具体的にどう表現するか。墨一色の原画の夜の世界を鮮やかなカラーにするという重要な仕事を見事に成し遂げています。
時が経つと原作の研究も進むので、1作目の漫画とは変わっているところがあります。興味深いのは銀河鉄道の車両の椅子です。最初の漫画ではボックス席を想定して描いていたところ、実は通勤電車によくあるロングシートであることが判明。命をめぐる壮大な旅路は長旅にむくボックスシートが合っているように思えますが、最新作ではロングシート。横に並んで、乗客たちが交流していきます。
会場は撮影NGでフォトスポットも無し。作者の意向なのでしょう。SNSで拡散できないのはもったいないです。
八王子市夢美術館は都心から少し離れていますが、夏休みに人混みを避けて出かけるにはちょうどいい場所かもしれません。
1985年に制作されたアニメ(監督:杉井ギサブロー、音楽:細野晴臣)も名作なので、オススメです。
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