三鷹天命反転中!!
三鷹市美術ギャラリー
2025年4月27日(日)
荒川修作というと、アート好きの私でも難解なイメージがありまして無意識に避けていたようなところがありますが、とっつきやすそうな展覧会のチラシを見て、訪れることにしました。
場所は三鷹市美術ギャラリー。JR中央線三鷹駅のすぐ前にあります。市民ギャラリーにしては尖ったアーティストを取り上げる理由は、氏の作品が三鷹市にあるからです。
荒川修作は1936年に名古屋で生まれました。武蔵野美術大学中退。1957年に読売アンデパンダン展に初出展、1960年にネオ・ダダイズム・オーガナイザー結成に参加するも脱退。詩人、美術評論家の瀧口修造の勧めでニューヨークへ。マルセル・デュシャンと交流をもちます。現代アート史を知っている方であれば、さりげなく聞いたことがある固有名詞ばかりで驚きます。
その後、マドリン・ギンズをパートナーに活動するようになり「意味のメカニズム」という研究を始めます。詳しく知らない(あまり知るつもりもない)のですが、描かない絵とでも言いましょうか。私なりの理解で作品を数点取り上げます。
9 THE DIAGRAM OF BOTTOMLESS No.2
真っ青な地に白い線で描いた図面のような絵画。ブループリントで描いた作品です。ブループリントとは日本語で青写真、青焼きのこと。建築図面などを描く時に使うコピーの一種です。真っ青な地に白い線、或いは白い地に青い線で出力します。
絵画を描くのは油絵の具ではなくてよいのではないか。また、図面を作るように描くことができるのでは。そのような問いかけ、試行錯誤の作品です。
11 Self Portrait (自画像)
細長いカンヴァスの上の方と下の方に印が描いてありあります。これは荒川修作本人の背丈をそのまま記したもの。人の姿は何も描いていません。昔、日本では子供の成長を思い出として記録するために、自宅の柱に背丈の高さに印をつけていました。あれと似たような考え方です。一見ただの印ですが間違いなく自画像です。
15 料理法
いわゆる料理のレシピが英語で書かれています。料理を絵画作品にするのであれば、出来上がった美味しそうな料理をシズル感たっぷりに描けばよい。
それでは料理することそのものを絵にするには?
料理している姿を絵にする?
いいえ、この絵を観ているあなたが実際に料理すればいい。ということで、レシピを文字で書いています。
荒川修作はアメリカ在住のアーティストだったため英語で作品を作っています。日本語であれば、日本人にもわかりやすいのですが。
19 1個のレモンにおけるあいまいな地帯の提示
これは少し絵画的で画面にいくつものレモンが描かれています。レモンには「◯◯◯なレモン」というような言葉が添えてあり、見る者は様々なレモンのイメージを思い浮かべるという趣向です。
何となく方向性はわかったでしょうか。絵画とはビジュアルなイメージをもって鑑賞者の心を動かすものですが、違う方法で鑑賞者の心を動かそうとしているのです。言葉による指示書のようなものにも思えますが、荒川修作が目指すものはそこではありませんでした。そして、その表現は絵画から建築に向かいます。
荒川修作+マドリン・ギンズの建築とは、人の心を動かす装置です。建築の構造を特殊な形にすることで、そこに住む人間の日常の動作、生活に刺激を与えて新しい感覚を呼び覚まし、価値観すらひっくり返すことを意図しています。
そのコンセプトを実現したのが、
- 養老天命反転地
- 奈義町現代美術館
- 三鷹天命反天地 In Memory of Helen Keller
どれもまだ見たことはないです。いずれ行くつもりですので詳しくはその時に取り上げるとして、今回はこのうちのひとつ、展覧会の目玉である
三鷹天命反天地 模型
を取り上げましょう。これは模型、実物は三鷹市にあり、建築してから今年で20年目。今でも賃貸で使われています。9世帯分の空間に分かれており、事務所として使用している方と、住居として使用している方がいます。ですから、実物の中を見ることはできません。
建物としては、立方体、球体、円柱で構成してあり、室内の床も丸かったり、波うたせたりしています。使い勝手をあえて悪くすることで、生活する人の能力、知覚を変容し、価値観、運命までもひっくり返す、そう、天命を反転することを意図しています。
会場では、室内の写真、映像、使っている方たちの言葉ばかりでなく、建築の詳細、建築会社の方々の苦労話などが展示されています。
プロの建築業者と、芸術家荒川修作のやりとりはとても面白いです。建築は垂直水平をとるところから始めるのがキホンのキなのに、それではダメだ真っ向から意見がぶつかる、法律上も懸念事項だらけで侃侃諤諤。
カタチが特殊なため構造上、耐えられるかわからない。大手ゼネコンのシミュレーションシステムまで使い、実現に至っています。
荒川修作+マドリン・ギンズの構想はこのような建物を世界中に広める使ることで、人類の運命を変えることです。
荒唐無稽な発想でしょうか。
私は彼らに賛同します。アートの力を信じるからこそ、このようなブログを書いているので、途方もないとも思いません。
天才とか、芸術家とか、そう呼ばれる人たちの活動は同時代の人々からは異端視されながら、後世では常識となっていることは少なくない。
GWも始まりますし、遠くに行く予定のない方は尖った発想で心を飛ばしてみてはいかがでしょうか。
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