蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児
東京国立博物館 平成館
2025年4月26日(土)
この展覧会の主役はこの方、蔦屋重三郎、
蔦屋重三郎(1750〜1797 以下、蔦重)は、江戸時代に新吉原に生まれ貸本業から成り上がり、江戸の出版王(メディア王)にまでなった人物です。
この時期、江戸は世界的に見ても有数の大都市で、公家、武家などではなく、町民文化、大衆文化が花開きます。現代に通じるところが多く、興味深い時代です。この展覧会はNHKとの共同企画で、蔦重に関わる江戸文化を取り上げます。
展示室の入り口は吉原の大門を模した大きな門があり、ここをくぐって吉原に入るような演出になっていました。それでは展示品を見ながらこの展覧会を紹介していきましょう。
2 四季三遊里風俗図 歌川豊春
これは驚いた作品。江戸時代に描いたように見えない。細長い四幅の掛け軸ワンセットの風景画です。上に遠く富士山、そこから下へ品川、深川、吉原と江戸の大きな遊里三ヶ所をまとめて描いています。
地理的には離れた場所が違和感なくひとつの風景として見えます。構成力が高い。
3 新吉原春景図屏風 歌川豊春
吉原の仲之町通りを斜め上から俯瞰した屏風絵です。右側に大門。通りには、花魁、客、多くの人々が歩き、活気があります。上の作品もそうなのですが状態がとてもよく発色が鮮やかです。
14 物類品◯ 平賀源内編著
平賀源内は本草学者であり、蘭学者であり、戯作者でもありました。これは日本各地の物産を集めた展覧会の品々の絵を載せたカタログのようなものです。絵は源内が描いたものか不明ですが、発明をしたり、西洋画を描いたりするマルチな才能の持ち主ですので自筆かもしれません。
源内は蔦重の手がけた「吉原細見」の序文も書いています。ドラマでは二人はかなり密な関係で、源内はメンターでもありました。山師とも言われた不屈のアイデアマンの薫陶を受けたのであれば、その後の活躍も納得はいきます。
27 雛形若菜初模様 磯田湖竜斎
歴史上、最初の大判錦絵で、とても刷りのクオリティが高い。贅沢品ですね。絵師は磯田湖竜斎。花魁、新造、禿をセットにして描いた人気シリーズ。初模様とは正月に着る衣装のことで模様までしっかり描いた着物が見事です。140図作られました。版元は西村屋。蔦屋重三郎も関わっていたそうですが、途中で離れたそうです。
39 青楼美人合姿鏡
青楼とは遊郭、特に吉原を指す言葉で、吉原の花魁たちの暮らしぶりを描いた錦絵です。ドラマでは贅沢な作り過ぎて高くて売れず蔦重は、吉原の旦那衆に借金を抱えてしまいます。
制作コストのかかる錦絵の商売が簡単にうまく行くはずがないのが現実で、蔦重が錦絵で成功するのは暫く先です。
蔦重といえば絵師、歌麿、写楽をプロデュースしたことが日本美術史的には注目されますが、それ以前に本屋として手広く仕事をしています。黄表紙、洒落本、狂歌本、噺本、云々。中でも「狂歌」の大流行には上手くのっかりました。
いつの時代も流行はありますよね。スキー、カラオケ、ダンス、ランニング、子どもから大人まで誰でもやるようになります。狂歌もそんな感じで身分に関係なく誰でも詠むようになり、人気がある者は有名になります。蔦重も蔦唐丸(つたのからまる)の名で狂歌師として活躍しながら、コネをつくり、狂歌をまとめて本を出版。新しいジャンルの本としてヒットさせます。
99 吾妻曲狂歌文庫
1ページに狂歌を一首ずつ載せた本です。五十人一首狂歌文庫とも呼ばれたそうです。カルタの百人一首のように上に狂歌、下に作者をレイアウトしています。ネットもテレビもラジオもない時代、本に掲載されることが有名人になることに繋がりました。
116 画本虫撰(えほんむしえらみ) 宿屋飯盛撰/喜多川歌麿画
118 潮干のつと 朱楽菅江戸撰/喜多川歌麿画
120 百千鳥狂歌合(ももちどりきょうかあわせ) 赤松金鶏撰/喜多川歌麿画
この3点は狂歌絵本です。蔦重が喜多川歌麿を世に出すために使った絵本と言われています。生き物を題材に読んだ狂歌の挿絵を歌麿が描いています。
最初の本は虫。はさみむし、けら、かえるなどが登場します。次の本は海、サザエ、アサリ、さくら貝。最後の本は鳥。まいまい、鶯、フクロウなど。
色々な題材をうまく狂歌にするのが面白みなのですが、さらに歌麿の生き物の絵が際立ちます。歌麿といえば美人画ですが、何でも描ける力がありました。
128 歌まくら 喜多川歌麿画
濡れ場を描かせれば歌麿の右に出るものはいない。この絵を見て年配の女性がキャアキャア言っていました。喜多川歌麿は「色」を描ける稀有な絵師で、西洋美術の伝統には存在しないタイプです。エゴン・シーレあたりが近いですが、吉原に入り浸っていた歌麿の肌感覚には程遠いです。
142 婦女人相十品 ポッピンを吹く娘 喜多川歌麿筆
ポッピンって何?
舶来のガラスのおもちゃです。口に加えて吹くと「ポッピン」と音がするから、ポッピンという説もあります。よく出てくる浮世絵ですので、きっと見たことがあると思います。背景を省き、娘の一瞬の仕草に集中した歌麿らしい一枚。
153 高名三美人 喜多川歌麿
江戸には市中の噂にのぼる美人が3人いました。
その3人とは
- 富本豊雛(とよひな) 富本節の名取
- 難波屋おきた 水茶屋の評判娘
- 高島屋おひさ 煎餅屋の評判娘
この3人をまとめて描いた大首絵です。平面的な浮世絵だからこそ成立する構図。リアルに描くとバストショット3点をこんなに風に均等に重ねるのは不自然極まりない。現代人が見るとどれも同じ顔に見えますが特徴を捉えて描き分けているそうです。この絵を元に実物を見分けられるか不安ですが。大河ドラマには必ず取り上げられるはずで、三美人に抜擢される女優が誰になるか楽しみです。
175 風流五節句 人日 鳥文斎栄之
美人画で歌麿と人気を二分していたのが、鳥文斎栄之。ドラマでも蔦重と因縁の深い西村屋が版元です。喜多川歌麿の自然体な女性像に対して、ファッショナブルな全身像を得意とし、人気がありました。ドラマの後半では歌麿との一騎打ちのような展開になるかもしれません。
そして、展示の終盤は東洲斎写楽のコーナーです。蔦重の肝入りで、寛政6年5月(1794年)に突然デビュー。センセーションを起こしながら、寛政7年1月(1795年)までのわずか10ヶ月間で消えていきました。その浮世絵、第1期から第4期までを順番に紹介しています。ここは大河ドラマの終盤のヤマで、まだ先の話ですから触れずにおきます。
それから最後はNHK大河ドラマ「べらぼう」の撮影コーナーでした。
橋の向こうの江戸の町は映像です。この後、夜空に花火が打ち上げられます。現在の撮影スタジオは背景を大型スクリーンにして風景を映し、そのまま撮影するという手法がとられています。出演者が撮影待ちの間、周りの役者はなぜ動かないのだろうと思ったらスクリーンの映像だったという話もあるほど、リアルで高精細な映像です。
蔦重の本屋、耕書堂。実物の再現ではありません。
イメージは大体合っているようです。
こうして見ていると自分も購入して見たくなります。今でも神田の古書店街で売っていますから、今度覗いてみようと思います。安いものもあるそうです。
花魁、五代目瀬川(小芝風花)です。
凛とした美しさ、色気、情の厚さ、プライド。蔦重との恋模様はシリーズ前半の見どころでした。
実在の人物で、浮世絵にも描かれています。吉田検校に身請けされたのは史実ですが、蔦重との関係は不明です。史実の空白を想像力で埋めるのが大河ドラマの醍醐味。瀬川の名前が、歌舞伎役者 瀬川菊之丞と同じことから、深い仲の平賀源内とのエピソードにつなげた森下佳子の脚本には痺れました。
大河ドラマ「べらぼう」の話と混ぜて書いてきましたが、ドラマを見ていなくても楽しめます。
逆に見ていない方、蔦重の人生はこれからが佳境。十分追いつけますので、これを機会にドラマの方も見ることをお勧めします。
最後まで読んでいただき、
ありがた山のほととぎす
でした。
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