松山智一展 FIRST LAST

麻布台ヒルズギャラリー

2025年4月11日(土)



松山智一はニューヨークで活躍するアーティスト。過去の名作、現代のモチーフを大量に引用したカラフルな色彩の絵画が印象的です。



カラフル過ぎていい印象を持っていなかったのですが、実物を見ずに判断するのは良くないと思い、麻布台ヒルズに足を伸ばしました。


03  We Met Thru Match.com

 

初期の出世作です。狩野派の絵画の植物や動物、ジャクソン・ポロックのポーリング、素朴派のルソーのような世界観、黒い背景に黒く描かれた西洋の紋様。それと分かるたくさんの要素を画面に散りばめているにも関わらず、二人の人物の出会いの場面に視線が誘導されます。この作品が一番良かった。



04  This is What It Feels Like


仮面のような顔に切金の紋様、上着に施された派手な植物の装飾、組んだ足の先に乗る鷹は日本の伝統的な金属細工。異なる文化の誰もがどこかで観たような気がする、そういう意味を込めたタイトルです。これは松山智一の作品に共通する感覚です。




松山の絵画の多くはカンヴァスの形が四角ではないです。単に四角を否定したものではなく、構図に奥行きや動きを与える必然性のある形をしています。


それを更に展示空間全体に展開したインスタレーションは洗練された展示でした。




18  The Dancer




立体作品では引用が少ないので、作品そのものの力が問われると思います。この作品は野外展示を前提にした公共彫刻です。複雑な構造で見る方向により違う作品に見えますが、滅茶苦茶ではない。幹や枝が曲がった樹木がそれでも共通の造形性を持つように、この作品も一貫性を感じます。磨きあげたステンレスの鏡面は、周囲の景観を作品に取り込むことを意図しています。



21 Glory Slowly 




22  Immorality Morality 




別々の作品ですが、対の作品でもあります。ひまわりの花の彫刻です。一方は花が力強く咲き誇り、他方は花が枯れ果てています。見る方向により違った形に見えますが、やはり破綻していない。

 車輪のようなパーツに施されている模様は引用です。光を受けて影や像が地面に映り込み、周囲も取り込んでひとつの作品となっています。



20  Keep Fishin’ For Twilight 



千羽鶴に着想を得た作品です。折り紙の鶴を解体、再構成したパーツを大きなカンヴァスに敷き詰めました。この圧倒的な集積は千羽鶴をコンセプトにしたことで生まれたものです。



25 Passage Immortalitas 


中央に受胎告知のポーズの二人。いろいろ描いていますが、西洋人には聖書の一場面しか見えないでしょう。松山智一の両親はキリスト教の信者で、アメリカに在住していました。日本人でありながら、ここまで大胆にこのモチーフを取り上げるのは珍しいと思います。



31  You, One Me Erase


松山が影響を受け、リスペクトしている絵画作品を架空の部屋の壁一面にかけて並べた作品です。作品だけではなく生き様も合わせてのチョイスでしょう。一種の自画像だと思います。




32  We The People 


中央に「ソクラテスの死」、右のショッピングカートに「マラーの死」。「最後の晩餐」のような一点透視の構図。背景のスーパーマーケットといい、ここまでやると、もはやパズルのようでどうかと思います。




私は西洋美術の中で、聖書や神話、史実の引用、寓意、を散りばめたを絵画を、読み解いていく鑑賞スタイルが好きではありません。アートという視覚芸術は絵本のように読んでいくものではなく、瞬間的に見てわかるものであるべきだと考えるからです。

 しかし、それは現代でも引き継がれているセオリーで寧ろ主流でもあります。松山自身は自分の作品は読み物だと述べていますので、そのつもりで制作しています。スーパーの食品売り場で、食品を買い漁る客の姿はアメリカなら誰もが自分事として見えるのでしょう。飽食の限りをつくし死ぬ者たちの姿は様々です。死を受け入れるのか、死を与えられるのか?選ぶ自由はあるのでしょうか。



うまい棒 げんだいびじゅつ味


ギャラリー外の展示スペースにされていた「うまい棒」とのコラボ作品。たしか定価10万円とかで販売という設定になっていたような。うまい棒としては超高価格ですが、アートとしてはお値頃な値段です。こういう現代アートでよくあるやり方は食傷気味ですがこれは好きかな。




展示は屋外にもあります。麻布台ヒルズのこの庭は気持ちの良いスペースです。


さて、見終わっての感想ですが食わず嫌いは良くないなと思いました。よく練られた作品で観ていると色々考えさせられます。説明パネルもしっかりしているので、アートファンでなくともとっつきやすい。色も綺麗で写真栄えします。


まあ、そういうことが逆に気に入らないのですが。これはきっと私がひねくれた人間だからでしょう。

要チェックなアーティストであることは確かです。



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