FACE展  2025
SOMPO美術館
2025年3月20日(木)


FACE展(Frontier Artists Contest Exhibition )は、新進作家の発掘を目的とした絵画の公募コンクールです。応募資格は年齢・所属を問いません。今回が13回目。応募が1312件、入選は57点でした。


展示されている全入選作品の中から私がいいと思った作品を10点ほど紹介します。

 

1  斎藤大  キャンプファイヤ

 

今回のグランプリ作品です。入選作品を一通り見てもグランプリは納得でした。圧倒的に力強い。青緑、朱色、躍動する白の3色の組み合わせの力強さが際立っています。キャンプファイヤのタイトル通りの絵というわかりやすさもその一助です。



2 春日佳歩  必要条件

 

入選作品の中で具象画はこれ一点でした。女性の生々しさ、水面の揺れで歪む肉体、反射する水の輝き、周囲の緑から覗いているような構図と、惹きつけられる絵画です。リアリズムにより過ぎていないさじ加減が飽きない秘密かもしれません。他にも人物があったらこれを選択したかは分かりませんが。



8 The Mp       二千二十五の顔

 

コンクールでは他人と同じような作品だと埋もれてしまいます。その観点ではもっとも差別化できていたのがこの作品です。近づいてみると丁寧に描かれた様々なキャラクターが魅力的で見ていて楽しい作品です。アートとしてどう評価するかは意見がわかれるでしょう。


 

 

7 ジェイリン祝重  Daydream


アーティストは誰も個性的ではあるのに、たくさん集めると意外と似たようなものを作っていることに気づきます。その中で異色な印象を与える作品は違う文化圏に生まれ育った人の手によるものであることが多い。女性の顔立ち、色の組み合わせ、装飾的なモチーフと異国を感じさせます。名前の通り、ハーフの作家でしょうか。人魚が浴槽にいるのはヨーロッパの物語のようで、絵柄は中東っぽい。日本人でも知っている点が理解のハードルを下げています。



25  川並宏道  幻影

 

コンクールに入選するために重要なポイントの1つは唯一無二であること。この作品は表現技法で唯一無二です。黒いカンヴァスに針金を張り巡らせて立体的に描いたように見えるスプーンとナイフとフォーク。近づいて見ると、黒い画面を削って描いています。三角刀の一刀彫りでしょうか。

 

 

黒と白の世界で ありながら、普通の絵画とは全く違う視覚体験をさせてくれます。


 

14 ウラサキミキオ  向こう側のまど

 

入選作の中で一番小さかったかもしれない。
背景は窓にかけられたカーテン。薄暗い感じがするのは、外側が太陽の光が届かない場所にあるからでしようか。カーテンに見える白い斑点は木洩れ陽のようです。実は写実的に描いているのですが、低い明度と対象の切り取り方で抽象画のような画面になっています。そして、仕掛けの面白さは手前に見える盛りつけた絵の具。色彩がビビッドで前に飛び出して、奥行き感があります。もしかしたら、透明なガラスに絵の具を盛りつけ手前に実際において描いたのではと見えるほど、納まりがよい。
 一見、地味で前を通り過ぎてしまいそうですが、引力のある作品です。
 
 

55 吉田茉莉子  美しいものが滅びてしまっても

 

心象画か、空想画か、わかりませんが、木の枠に紐でくくりつけて貼った布に描いたジャングルの中の人物像には、メッセージ性を感じます。こういう世界観を追求し続けている方なら他の作品も見てみたいです。



31 渋谷健  ノスタルジア


作者の思い出にもとづく心象画、あるいは誰かの物語のそれでしようか。中央に大きく乗馬する女性の姿を置いたことで、散らばってしまいがちな要素が時間的な流れも含めてまとまり、見やすくなっています。


 

36 nag.      They are, I am.

 

抽象画でありながら、具象的な物体感。髪の毛、植物の様な有機的な形状には動きがあり、何か妖しい雰囲気があります。こういうミニマルなアプローチは意外に発展性があるので、今後の展開が楽しみです。


 

42 不二  諸行無常

 

漆を用いて描いています。沈み込むような暗い色彩。フラットな画面に施される繊細な模様。似たような形状を油絵で描いたとしてもこの雰囲気は出せないでしょう。技法が印象を左右するといういい例です。日本の技法を用いた作品は他にもあり、どれも面白いものでした。



45 松野純子  Ritual

 

抽象画においてカンヴァスに絵の具を叩きつけるというのは、よく使われる手法ですが、この作品のオリジナリティは近づくとわかります。


 

飛び散った絵の具の跡のすべてに、線で模様を上書きしています。その膨大な手間に驚かされると共に、接近して見える作品の姿、離れて見える作品の姿の非対称なギャップが面白いところです。

 

33 手塚好江  部屋の中のダイイン


抽象画の作品には独自の技法を盛り込んだ作品が多かったです。 これはよく見ると、かけられた衣服を描いており、抽象画ではないかもしれません。


 

離れて見ても絵の具で引かれた線が盛り上がっているのがわかります。今回の入選作はこのような大変手間のかかる技法が多い気がします。



26 木村萌  風をなぜて


裏が透けて見えるほど薄い生地に描いています。最初、模様のような抽象画かと思ったのですが、植物と風景と空を重ね合わせたようなもので、そうともいえないです。 タイトルのような風を感じます。この手法ならではの透明感、爽やかがテーマとマッチしています。

 

 

 

38 西花純佳  FUN

 
タイトルの通り、楽しげな色彩で幸福感を感じます。絵の具は所々かなり盛って使っており、躍動感があります。


こういう抽象画で他者から突出するためには、微妙なさじ加減、ダイナミズムを高度にバランスさせるセンスが必要です。楽しげな色の構成といい将来有望な気がします。



さて、14点になってしまいました。厳選しようと思ったのですが、どれも一定のレベルを超えており甲乙つけ難かったです。

 この展覧会は5階、4階がFACE展2025の展示、3階は過去のFACE展の歴代グランプリ作品が展示となっていました。

 
 グランプリ作品を見ると2025入選作品の平均値から比べ明らかに違うレベルとわかります。全く違う作風のものであるにも関わらず、どれも力強さ、統一感、一貫性があります。
 緻密なものもシンプルなものも、細部まで意思が行き届いていて無駄な部分がない。後世に残っていく作品は違いがあるということを確認できました。この中から新しいスターが生まれることを期待しています。

 
最後にSOMPO美術館といえば、恒例の作品をチラ見しました。
 

フィンセント・ファン・ゴッホ  ひまわり

 

ゴッホにしては中くらいの落ち着いたタッチ、色彩もそれほどは飛び込んでこない方です。ここに来るまでFACE展の発色の鮮やかな新作をたくさん見てきた影響もあるでしょう。炎の画家というイメージが強いので、激しさばかり好まれますが調和のとれた作品も良いものです。
 
今回はこの辺で。


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