ヒルマ・アフ・クリント展

東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
2025年3月8日(土)



ヒルマ・アフ・クリントを一言で表現するなら


本格派スピリチュアルアーティスト。



アメブロでブログを書いていれば、スピリチュアル系の頂点、女王となっていたでしょう。


展覧会のチラシでは、カンディンスキー、モンドリアンより早い抽象絵画の先駆者とありますが、その見方は美術の視点過ぎて見誤っている気がします。


1862年、スウェーデンのストックホルム生まれ。王立芸術アカデミーに入学し優秀な成績で卒業します。当時の作品を見ると確かな表現技術をもち写実的な絵も上手です。しかし型にハマった感じで面白みがない。むしろそういう表現につまらなさを感じていたのは本人かもしれません。


若い頃から死者との交信に興味を持ち交霊会に参加、1891年に霊的存在からメッセージを受けます。こうしてこの世ではない世界を表現するようになり、あとは一直線。





抽象絵画っぽいですが、色彩が華やか、仕上がりがお洒落で綺麗、上品な雰囲気です。


文字が入っていてパワポの説明図のようでもあります。私は抽象画には2つのタイプがあると思っています。


  • 作家本人も何かわからないものを描く滅茶苦茶なタイプ
  • 作家本人には確か見えている抽象的概念や違う世界・宇宙を形にするタイプ


クリントは間違いなく後者。何を描いたか説明を求めれば、何時間でもしてくれそうです。聞いても内容を理解できるとは思えませんが。


思想としては、キリスト教の信仰をベースに神秘主義、神智学などを探求しています。知識としではなく、実感、体感、直感を重んじます。本ばかり読んでないで、エクササイズもやりましょうという感じでしょう。


表現の振れ幅は大きく、その熱量には驚きます。特にこの作品。



10の最大物


10点で構成されるシリーズ作品。1点1点がとても大きく、縦3メートル、横2メートルはあります。どこで展示する計画だったのでしょうか。


国立近代美術館の展示も大胆でした。広い展示室を丸ごと使い中央に壁を立てて、通路をロの字型にし、10点を回って見るようになっています。外側の壁には椅子をつけて、腰かけてゆっくり鑑賞もできます。


幼年期


青年期


成人期


老人期



それぞれ題名が順番に、幼年期、青年期、成人期、老年期となっています。幼年期には精子が卵子に受精しているようなモチーフがありますから、人間の成長、進化の過程、人生を表現していると解釈するのが無難な線でしょう。


イメージも段階的に変化させてあり、


  • 幼年期 始まりを感じさせる
  • 青年期 明るく動的で力強い
  • 成人期 複雑さを増しつつ落ち着いてくる
  • 老年期 静的、形ができている


やはり、人間の一生のようです。スピリチュアル的な解釈としては、魂の成長と進化が引き起こす宇宙そのものの創生、など、最も深く広く捉えていくものなのかもしれません。


 


これも、単なる図形というより、祭壇画のようです。単にイメージを平面に落とし込むだけではなく、何らかの用途を持っている、例えば特別な儀式の時に使う道具のようにも見えます。


晩年になると、小さいサイズのアプローチの違う作品を作るようになります。




絵画表現というより何かを観察、整理・分析したノートのようです。


現代科学とは違う独自の体系を持った学問のようなものによって世界を認識している。私はこれは絵画ではないと思います。



こちらは生涯書き続けたノートです。こういうノートが何冊も残っています。通常、絵画、彫刻はパッと見て内容を理解するものですが、作品の理解のために資料を全部読まねばならないのなら気が遠くなります。




ヒルマ・アフ・クリントは晩年には自らの作品を展示する美術館の建築を目指していたそうです。生涯追求し続けた作品、いや宗教か哲学のようなものを総括し、社会に残すことを使命にしていた。


全作品を通して感じられるのは、一貫性。私たちには理解できない抽象的な絵画ですが、表現に迷いがなく細部までイメージされています。実験的に試みとは思えない。彼女には確かに何かが見えていて抽象ではなく具象だったのではないでしょうか。


圧倒的な神秘体験がこの確信に満ちた世界観を支えている。私には足を踏み入れることができない領域ですが、少しだけ羨ましくもあります。



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