「evala 現われる場 消滅する像」展
NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA,B
2025年3月1日(土)


 

 

タイトルが難解な印象を与えるのは狙いではないでしょうが、結果そうなって来場者の足が遠のくなら、もったい無い展覧会です。

 

evala はアーティスト名。音楽家、サウンド・アーティスト、日本人です。サウンド・アートは文字通り音を主体にした作品です。芸術祭などでたまに見かけることはありますが個展は珍しい。見ることを前提にしている美術館では展示が困難というのもあるでしょう。以前からevalaの作品を展示しているICCだからこそ、実現した企画展といえます。

 

音を主体にした作品は直感、感覚に訴えるものが多いので、実際に触れると、予備知識はなくとも見やすい、いや、聞きやすいです。

 

 

A  《 ebb tide 》 2024年

展示室ひとつを丸ごと使ったサウンドインスタレーションです。暗い室内の中央に展示室の半分ぐらいの面積を占める丘のようなものが作られています。入場者はここに登って座り、リラックスした状態で作品を鑑賞することができます。

 

室内は奥の方にわずかに明かりが差し、霧が立ち込めています。何かこの先にありそうで周囲に注意を引かれます。四方から聞こえる音に集中するように工夫されているのだと思います。

 

聞こえてくる音は様々で段々と変わっていきます。



心臓の音

水の音

雨の音

森の音

民族楽器の音


電磁波の音

環境音楽のような音

・・・



映画館のサラウンドシステムさながらに、臨場感のある響きです。


たまに、フラッシュの光が音と共に瞬きます。


時に雨に打たれているような、

時に森の深くで木々に囲まれているような、

時にどこかの村で佇んでいるような、


リアルな情景が脳裏をかすめ、ただならぬ空間に放り込まれたようです。

 



 

1  《 Sprout "fizz" 》 2024年

 

展示空間一面にスピーカーを設置したインスタレーション。コードがむき出しのままクネクネと配されているのが有機的な印象を与えます。


しかし、スピーカーも床も壁も真っ黒で色彩が皆無。見ることより聞くことが主の作品だからです。

 

この中を歩き回ると、足元のスピーカーから電波ノイズのような音が聞こえ、鳴き声のようでもあります。スピーカーは単なる音声の出力装置ではなく、ひとつひとつが生物と見ることもできます。


そうするとスピーカーは花か蕾でしょうか。


 

4  《 Score of Presence 》 2019年

 

展示室の四方の壁に平面作品が架けられています。どれも黒い地に線が網のようにひかれた抽象画のような作品で、照明の光が反射し見る位置を変えると七色に変化します。

 

 これは単なる平面作品ではなくて、カンヴァスの裏にスピーカーが仕込まれて、近づくとカリカリという音が聞こえてきます。なぜこの音にしたのかは興味深いところです。雑音じみていて正体がイメージしにくい。もう少し生き物に寄せるとか、絵のイメージに近い異空間のような効果音とかの方が、作品としてまとまりは出せたでしょう。

 既視感(既聴感?)のあるものは避けて、違和感、ギャップを狙ったのかもしれません。

 

 

5   《 Inter-Scape "slit" 》 2024年

 

暗い展示室の壁にスピーカーが設置され、その前の椅子があります。座って鑑賞する試聴室型のサウンドアートです。



ジャングルの音

水の音

動物、鳥の鳴き声

女性の息づかい

都会の街の音、人の声

飛行機のフライトの音

・・・



「ebb tide」と比べると、景色が目に浮かぶわかりやすい音が多いです。世界を旅して集めたサウンドスケッチのようなものに近い。


音だけだと関係があまりない素材でも、違和感なく繋がるところも不思議です。



6   《 Embryo 》 2024年


小さな展示室の壁に黒い円がぼんやりと映し出されています。


黒い円はモヤモヤしていて、赤い色や青い色が絵の具で滲んだように被さって、変化します。


音はというと、ボウーッとした低音が鳴り響き重苦しい感じです。

 

いわば悪い夢でも見ているような世界。


しばらく見ていてもこの状態が続くばかりでした。もしかしたら、この後に新たな展開があったのかもしれません。


なかったとするなら、まさに悪夢を体感させる作品だったのでしょう。




2  《 大きな耳を持ったキツネ 》   2013-14年

3  《 Our Muse 》   2017年


この二つの作品は予約制で既に定員に達していたため聞けませんでした。なぜ予約制か?

それは、ICCにしか存在しない特別な部屋に展示しているからです。


その部屋とは無響室。壁、天井、と全方向に尖った吸音の部材が取り付けてあります。普通は研究所にしかないような代物ですが、ICCは1997年の開設時にアートのためにこの部屋を設けました。音の反響しない空間に入ると不思議な感覚になります。音だけがそこに存在するとでもいえば良いのか。単なる静寂とは違うものです。


evala の作品はこの部屋のために作られた特別なものです。


  • 京都府北部の北丹後で録音したフィールド・レコーディング音源を元に制作した4曲。
  • 沖縄・竹富島の御嶽(うたき)でのフィールド・レコーディング音源を元にした作品。

 

もちろん一般的な音楽とは違う、さらに普段耳にする音とは全く響きの違う作品です。ここ以外で体験することは難しいでしょう。


 もう会期は終了していますので鑑賞することはできません。ブログの公開が会期終了後となり、申し訳ない限りですが、この部屋には今後の展覧会でも非日常的な音の体験ができる作品がきっと展示されると思いますので、興味のある方は事前に確認して訪れるのがよいと思います。


アートにおいて音を中心にした作品の始まりは、1953年8月23日に初演されたジョン・ケージの

《4分33秒》からというのが、現代アートの常識です。ICCのホームページのサウンド・アート史の年表もそうなっています。前回取り上げた坂本龍一の作品でもわかるように、今も進化(深化)を続けているジャンルです。


耳にする機会があれば、是非足を運んでみてください。ICCは尖った企画展が多いので要チェックです。


 

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