坂本龍一 | 音を視る 時を聴く
東京都現代美術館
2025年1月5日(日)
2023年3月に逝去した坂本龍一の回顧展です。音楽家ではなく現代アートのアーティストとして一面を見ることができます。私は坂本龍一は現代アートの作家としてはコンセプチュアルアーティストと捉えています。もちろん音楽家ならではの感性が起点にありますし、テクノロジー先行の今日でいうメディアアートの実績も多い。ではあるものの、音楽の領域を飛び出すそのコンセプチュアルな発想に際立つものを感じるのです。
今回は単に過去の作品を再現するだけではなく、共作したアーティストがこの企画展に合わせて新作も展示しています。昨年のICCのトリビュート展もそうでしたが、死後にも新作が生まれ続けているとも言えます。
そうなる理由は坂本龍一の現代アートの作品はコラボが多いからです。中でもメディアアートグループのダムタイプの一員の高谷史郎との作品は代表的なものと言っていいでしょう。
1.坂本龍一+高谷史郎《TIME TIME》2024 (新作)
2021年に初演の舞台作品を映像で再構築した作品。舞台は昨年、東京オペラシティで再演されました。見に行ったのですが半分くらい眠ってしまいました。(私はパフォーマンス系、舞台系はよく寝ます。断言することではありませんね。)
横長の大型スクリーンの映像の前に水がはられています。「夢十夜」「邯鄲」という物語が、田中珉の舞踏、宮田まゆみの笙の調べ、坂本龍一の音楽、で進みます。舞台では水面の上で演者が即興パフォーマンスをしましたが、今回は記録映像をスクリーンで流していました。舞台をうまく再構築していると思います。
どんな内容?と聞かれれば時間についての様々な物語が錯綜する、という感じでした。寝てしまいましたので、時間が所々欠けておりますが。
2.坂本龍一+高谷史郎《water state 1》2013
ダムタイプの作品は地球規模の事象をテクノロジーを駆使してインスタレーションに落とし込むものが、よくあります。
これは全地球の気象データを元に動作する作品です。天井に水滴を落とす装置が設置され、その真下にある黒い水槽に水がはってあります。水面が動かなければ黒い鏡のようです。この水面に地球全土の降雨量のデータを元に水滴を落とす仕組みです。
ポツポツと水滴が落ちると波紋が広がります。地球の天候を反映して、大量に水滴が落ちる時もあれば、全く落ちない時もあります。展示室の照明、効果音も合わせて変化します。
数量データは一切、示されないので、この状況が何を意味しているかは想像する他ありません。熱帯雨林が焼失、砂漠が増え、干魃が増える一方で、氷河がとけ、豪雨が街を襲う。不吉な兆候をイメージしてしまうのは、作り手の狙いが成功しているからと思います。
3.坂本龍一 with 高谷史郎《IS YOUR TIME》2017/2024
東日本大震災の際に津波にのまれ、破損したグランドピアノ。坂本龍一はこれを自然が調律したピアノと捉えて引き取り、いくつもの作品に使用しています。坂本龍一は人間が築き上げた音楽という枠組みの外に存在する音を常に意識しています。いわゆる音楽活動を行ったあと、その外での活動を行うという振り子のような創作活動を生涯続けました。
両方を鑑賞するには見る側にも、力が求められます。私は外側の人間に属する者ですので、この破損したピアノを楽器と見立てるところにコンセプチュアルアートの系譜を観ます。
6.坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》2024
以前、東京都現代美術館でダムタイプの個展が行われた時、これと同じタイプの作品が展示されていました。画面がデカいというのは大事ですね。
この展示室の壁一面にワイドな四角い画像から、左辺の縦一本分の線の画像データを真っ直ぐ水平に引き伸ばすことによって生まれるボーダー模様です。
これが何を意味しているかは解釈は自由です。ひとつのイメージが少しずつリアルに解体、変換、されるとき、それは何のメタファーとなっているでしょうか。
7.坂本龍一+Zakkubalan《async–volume》2017
スマホやタブレットを用いたインスタレーション。うまいなあと感心した作品。使われている映像は坂本龍一の在住していたニューヨークの映像。照明の落ちた真っ暗な部屋の壁に配置されたたくさんの映像装置に、たわいもないのどかな日常の風景が映し出されています。定点撮影の映像なので、窓のように見える効果があり、坂本龍一の生活した空間にいるような擬似体験ができます。
8.坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》2007
これは前から見たかった作品で夢が叶いました。コンセプトの元になっているのは坂本龍一のオペラ作品「LIFE」です。それをインスタレーションとして再構築しています。「LIFE」を見ていないのでコンセプトも理解していないのですが、見た目の出来が良い。天井から吊るされた透明な水槽の水面には波と霧が発生し、そこにプロジェクターの映像が当てられて、床に幻想的な映像が、写し出されます。
*アーカイブ特別展示:1996–97年のパフォーマンスを再現した新作インスタレーション
11.坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》1996–1997/2024(初公開)
坂本龍一のライブ演奏の音源データと記録映像を組み合わせて、1996年〜1997年当時のパフォーマンスを再現しています。
30年近く前のメディアアート作品。坂本龍一の演奏に合わせて映像が生成される仕組みです。鍵盤ひとつひとつの音に対して、光の粒が放たれていくシンプルな作りですが、音の強弱、音程に応じて微妙に変化するので、演奏と一体感のあるものなっています。今はもっと凝った映像技術が存在しますが、それが気にならないくらい洗練されたデザインと坂本龍一のパフォーマンスでずっと見ていられます。この居心地の良さは大衆音楽もこなす坂本龍一ならでは。
12.坂本龍一+真鍋大度《センシング・ストリームズ 2024–不可視、不可聴 (MOT version)》2024
電磁波を可視化した作品。昨年ICCの坂本龍一トリビュート展で観ましたので詳しくはこちらをご覧ください。
今回のバージョンは、見るだけのものになっていました。地球上に満ちている電磁波を可視化するなら、空の下に展示するのは合っていると思います。
10.坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662 2024(新作)
中谷芙二子は霧の彫刻家。1970年の大阪万博から活躍し続けるまさにレジェンド。霧は自然環境のに大きく左右される素材です。風が強ければ吹き飛んでしまうし、閉鎖性のない空間にはたまりにくく、仕込みが大変。これまで何度か見たことがあるですが、霧っぽくなかった。その点このプールのように四角く深さがあり建物に囲まれたこの空間は濃霧で最高の出来でした。歩けないくらい。
音の印象が薄くて坂本龍一の関わり方が今ひとつわかりませんが。きっと何かそれらしい音が流れていたのでしょう。
さて、一点一点、見応えのある展覧会でした。インスタレーション、映像作品など見るのに時間を要するものが多く時間が足りなかったです。来場者が業界人ぽいオーラがある方が多く、普通(?)の展覧会と雰囲気が違うのもおもしろいところでした。
3月末の会期終了に向け連日の混雑で、チケットも日付指定に変更となりました。早めにチェックしておくことをおすすめします。
今年見るべき展覧会のひとつです。
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