落合陽一 昼夜の相代も神仏:鮨ヌル∴鰻ドラゴン
BAG-Brillia Art Gallery-
2024年9月21日(土)



今回は鰻屋と鮨屋です。


最先端の生成AIを使った実験的なヌルヌルした映像を無限に見せられるのかと思っていたら、落合陽一の集大成ともいえるような内容のバランスのよい個展でした。これなら万人に薦められます。


八重洲、日本橋、京橋エリアの地域性を作品に取り込むというコンセプトで作ったのが、鰻屋と鮨屋。

これをデジタルネイチャーの視点で再構築したインスタレーションです。



  鰻屋 鰻龍



京橋の BAG-Brillia Art Gallery- の2つの展示スペースを改装しています。入り口の暖簾としめ縄が本格的でお店づくりの力の入れようがわかります。




ウナギに見立てている薄い延長コード。

タレのつぼ、串打ちの串、一服するための煙管。急須と茶碗もあります。



鰻を割いたら串を打って、焼きです。ここまで揃えたなら、職人を連れてきて鰻を焼いて欲しいですが、デジタルの世界でなまものは扱いません。



さらに民藝テイストがふんだんに、盛り込まれていました。壁には年季の入った半纏が。この地域の火消しが使っていたものですかね。



そして仏像とそれにからみつく神獣。いや、一体なのかもしれません。VRゴーグルのようなものをつけて、森羅万象を見通す力を持っています。どちらも生成AIで作り出し、3Dのデータにしてからリアルに作り出したもの。神獣といば龍ですが、鱗はないし鰻なのでしようね。鰻屋の御神体という位置付けです。


背後の光背は、過去の作品を再利用。壁にうつる生成AIの映像の光の波長を分解して七色に輝きを放ちます。デジタルから生まれた物体と光が現実の神仏となって京橋に降臨しました。



一定時間ごとに照明が落ちて、御神体が青い光に包まれます。ミラーボールのように回転するガラスの彫刻がレーザー光を反射し、能が流れてきます。



この凹凸のある立体彫刻はよく出てくる作品で、色々な使われ方をします。今回はミラーボールになりました。




モニターの前面にカメラつけられてあり、対象を認識して店の主人が言いそうな言葉を喋ります。私は青いポロシャツを着ていたのですが、「青い服が作品と合ってますねえ。」みたいなことを言っていました。




鰻屋に黒電話ってハマりますよね。黒電話の受話器をとって何か話すとAIがそれらしい返事をします。


「鰻をひとつお願いします。」と注文したら、「私は殺生はできません。隣の鰻屋でしたら対応してもらえると思いますが、いかがですか。」と返してきました。




鮎です。鮎の塩焼きは落合陽一の大好物で、日本の未来を守るために日本政府の政策立案に関わる動機のひとつになっています。包丁ではなく数式で捌いた鮎は絞った手拭いのようです。



生成AIによる映像。この類いのものは、夕暮れの空の雲や、海の波の形の変化を見るようにぼうっと見るしかないです。




そして、今回いちばん気になっていた作品がコレです。「鮨ヌル ∴鰻ドラゴン」。フルカラーの立体彫刻を期待していましたが、モノクロのプリントでした。質感はいいです。神獣、鰻、鮎のような模様が絡み合い、太極図や二つ巴のようなカタチになっています。どこかの宗教の儀式に使われている祭具のような趣きがあります。




  鮨 ヌル



鮨屋です。こちらはをお店を再現したインスタレーション。店名の「ヌル」って何?


プログラム言語「null」からきた言葉です。データが存在しない状態をいいます。仏教でいう「空(くう)」と同義だそうです。難しい概念を難しい例えで説明するのは、アカデミックな方の悪い癖です。

生きている鰻や鮎のヌルっとした感触とは関係はなかったみたいです。



つくりが本格的なのは驚きました。カウンターはまさか一枚板ではないでしょうが、会期が終わって捨てるのはエシカルでないので、鮨屋を開業しようとしている誰かに譲ってはいかがでしょう。



ヌルッとイキのいい鮎で、天井から伸びる長い手が、何かを握ってくれるようです。この長い手は腕のいい鮨職人の手なのでしょうか。


そういえば、鮎の鮨って珍しいですね。私は食べたことがないです。やはり塩焼きの方が美味しそうです。




カウンターの上に置いてあるおひつに、鰻屋にあったものと同じ仕掛けがしてありました。カメラがとらえる映像からそれらしい言葉で生成AIが語りかけてきます。夫婦らしい男女が店内に入ると「お二人さん、いい写真撮るねえ。」とおだてていました。人の数、カメラも認識できるようです。口下手な主人だったらおひつに会話を任せることができますね。


 

神棚。この神様は計算機自然に存在しているのか、リアルな自然に存在しているのか設定はいずれでしょうか。



オブジェ。店内の装飾に使われています。



生花。入ってすぐのところに飾ってありました。妙に映える出来でした。左の方はたまに動いていました。「デジタル生花 落合流」とか創始できそうです。



円空仏。本物かと思ったら実物を3Dスキャンしたレプリカ。素材選びが良いので仕上がりの印象は本物っぽいです。確かに日本の老舗の料理屋や旅館に円空仏は置いてありそうです。



さて、今回はとても見やすかったです。落合陽一の作品を見る時は膨大な情報の波に呑まれないように気をつけています。理解しきれませんし、作品から汲み取れないものは無いと同じとある程度割り切っています。


鰻屋や鮨屋の体裁をとったことで、デジタル感がかなり薄まり、肌感覚に訴えるネイチャー寄りな個展でした。

 

 

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