平田晃久 人間の波打ちぎわ 

練馬区立美術館

2024年8月17日(土)



練馬区立美術館はリニューアルが決まっています。新しい美術館は令和9年度末に開館する予定です。


美術館の設計のためにコンペが行われ、採用されたのが平田晃久氏。今回の展覧会は、氏の建築思想、新しい練馬区立美術館も含む作品を展示しています。区民に開かれた美術館としての説明責任と企画展をまとめて行うという内容です。


平田晃久氏は子供の頃、昆虫少年で花や木に群がる虫たちの姿を見た経験から、建築と人間の新しい関係性を見出しました。


「建築とは<からまりしろ>をつくることである。」


「からまりしろ」は氏の造語(「絡まる」と「のりしろ」)です。木の枝やその隙間の空間が、行き来できる往来であり、居心地の良いスペースでもある。そしてそこにいるものたちに新たな関係が生まれる。これを「からまりしろ」と呼んでいます。このコンセプトをいかにして具体的かつ現実的な設計に落とし込んできたか、その経緯がよくわかる構成の展覧会になっています。



House H


二人暮らしの夫婦のための個人住宅。ワンルームでありながら区切られている空間というコンセプトで設計しています。アイデアの元はキャベツです。キャベツは葉の一枚一枚に細かいヒダがあることで、その隙間に小さい空間が無数に存在します。柱や壁を用いずひとつの面でいくつもの部屋、通路を作り、その中を自由に行き来できる、そんな建築を目指しています。


6/1


1つの平面を立体的な曲面にして空間をつくる実例です。部屋のような空間にはなっていませんが、柱などを用いず自立しています。



Csh


キャベツのアイデアの発展形です。オブジェに見えるこの作品、実は椅子です。内側は細かい空間に分かれつつ接続していて、全体として座っても壊れない強い構造を持っている。多分この椅子はもとはひとつの平面をしわくちゃにして作られていると思います。



Global Bowl


一本の大きな木には多くの虫や動物たちが、行き来する無数の枝があります。木の場合は枝の先端まで行けば逆戻りしなければなりませんが、枝と枝が繋がっていれば、行き来も効率的になります。半球型の構造をとることで、自由な往来を実現しています。これを実際の建築にどう適用するか?これが次第に現実的な設計案に結実していきます。



9h Asakusa


平田氏はカプセルホテルチェーン、9hoursの建築デザインを手がけています。斬新なコンセプトのホテルには斬新なデザインを。部屋から部屋、フロアからフロア、部屋からフロアと自由な導線を建物の外側に設けています。今度、宿泊してみたいと思います。



太田市美術館・図書館


平田晃久の設計思想が具現化された代表作。建築の周りに階段、スペースを張り巡らせ部屋と部屋、階も階をつないでいます。そして全面に配された緑、部屋の開放的で大きな窓。建物を器と考えるなら収容効率が高い構造がよいが、からましりろが多いということが重要と考えると全く違うカタチが生まれます。



仙台市庁舎プロポーザル案


太田市美術館の発展型です。大木のような外観。建物と呼ぶより、空中庭園とでも呼ぶべき形です。ここまでくると、実際建てるのはかなり大変そうです。内側の構造も気になるところです。



波打ちぎわの波打ちぎわ


練馬区立美術館のエントランスを活用したインスタレーション作品。偶然ですが、現在の建物のエントランスも<からまりしろ>があるように見えます。この空間を布でしきり、新たなスペース、新たな通路、を創造しています。



そして、もうひとつ氏の考える概念に<響き>があります。からまりしろに集まり交流する人同士が放つ集団的エネルギーのようなものと呼べば良いでしょうか。そして、この土地の歴史、風土、太陽まで世界の放つエネルギーのようなものも<響き>ととらえ、それらが響きあう境界にイメージのかけらが、打ち上げられています。



Shining Clouds 


個人住宅。極端に分厚い屋根は、茶人松平不昧の茶室からヒントを得たもの。瓦葺きの厚い屋根の造形を取り入れています。屋根というより壁のようでもあります。模型を近くに寄って見ると、からましろが取り入れられているのがわかります。



臺灣大學 藝文大樓


台湾の大学の設計案です。電車の駅のように並ぶ細長い屋根が通路にも、庭にもなっています。デザインは違いますが、からまりしろをつくるという発想は共通しています。このほかにも、台湾の建築の設計案は多く展示されていました。



練馬区立美術館・貫井図書館


そして、これが新しい練馬区立美術館です。建物は正面の広場に向かい、入口でもあり、屋根でもあり、通路でもあり、スペースでもあるからまりしろが設けられています。



外へは開放的な構造。内側は、美術館、図書館、共用スペースの3つのゾーンに分けられています。図書館や共用スペースは、からまりしろが多め、美術館はクローズドになっています。



美術館というと、ホワイトキューブと揶揄されることが多い昨今、このような新しいタイプの建築を採用する練馬区はなかなか攻めている思います。


令和9年、3年後、そう遠い未来のことではありませんね。


完成が楽しみです。


 

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