空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン

東京ステーションギャラリー

2024年7月15日(日)


  


ジャン=ミッシェル・フォロン(1934〜2005)はベルギーの生まれです。父親は息子に建築家になることを望んでいたそうですが、絵画への想いを断ち切れず、1955年にパリへ出て絵を描くことに専念します。この頃は意外にも墨とペンを用いたドローイングを描いていました。

 

描いたドローイングを出版社に送り続けて、ようやくニューヨークの出版社の目にとまり採用。そこから次第に仕事が増えていきます。代表的なカラフルなイラストはフォロンの一側面で、墨とペン、彫刻、アニメーションと、多様な技法を用いて独特の世界観を表現しています。 

 


  


フォロンの作品にはよく登場するお馴染みのキャラクターがいます。帽子をかぶり、大きなコートを着た人物です。ユーモラスで謎めいたところがある不思議な存在、「リトルハットマン」と呼ばれています。フォロンの分身なのか、私たちの代弁者なのか、はたまた、妖精か、天使か。



 

019 1番目の考え

高さが20センチほどの小さなブロンズの人形のシリーズ作品です。首から下は洋服を着た立っている人物でみな同じ姿。頭部をすげ替えているだけです。作品名は「◯◯番目の考え」となっており、何点も展示されていました。記念すべき1番目は、顔が?(はてな)マーク。このシリーズの相応しい作品ですが、実は制作年を見ると最初に制作されたものではありませんでした。

 

 

042   赤い仮面

拾った鉄屑を加工して、仮面にしたものです。加工といっても、線のような細い目、鼻、口を穴を開けて描き足した程度。シンプルですが、フォロンの描くキャラクターになっています。

他にも拾ったゴミのようなものを加工して制作した仮面が展示されていました。とにかく作ることが好きというのが伝わってきます。

 

 

073   森

背中にねじ巻きがついているオモチャのようなリトルハットマンが森の中にに何人もいます。よく見ると、森の木もねじ巻きのかたちをしています。ねじ巻きは活動時間が限られています。人間に寿命があるのは当たり前のことですが、ねじ巻きという人工的なものがついていることで、現代社会という枠組みに縛られてより不自由な者たちにも見えてきます。

 


 

フォロンはアメリカの出版社の仕事が増えてから、 ニューヨークに移住します。摩天楼という世界有数の人工的な都市空間に対する素朴な印象をそのまま絵にしたものも多いです。箱のような無数の高層ビル、たくさんの窓、標識、たくさんの人。


特に交通標識の矢印が強く印象に残ったそうで、自動車で移動している時に見かける矢印を数えたこともあるそうです。1日で1,000を越えたと言っています。そんな矢印そのものを絵にした作品もあれば、リトルハットマンとの組み合わせで作品になっているものもありました。「無題」の作品が多いので、個別の絵については述べにくいのが残念です。

 

 

124   群衆

ロボットのような四角い顔立ちの人々が綺麗な空の下で立ち並ぶ姿。水彩絵の具のにじみが美しいグラデーションの作品です。鮮やかな色彩の使い方がフォロンらしいです。

 

 

134 白い扉

青と緑、少ない色数ながら豊かな色彩空間を構築しています。壁とも建物とも見えるいくつかの壁面の一つに白い扉があります。その扉にリトルハットマンが入ろうとしています。長い間ここで待っていたのかもしれません。とても遠くから訪れたのかもしれません。なんの情報もないのですが、象徴的に見えるのがフォロンの絵画の世界です。

 

 

136   反射

帽子を被った人物の胸像です。大きくまるいメガネのような目がアルミになっています。アルミの板に描いているようで、鏡のように目が反射します。こういう異なる素材の組み合わせは、違和感を引き起こしやすいのですが、フォロンの作品ではうまくまとまって見えるから不思議です。

 

 

169   発明 

足で漕ぐと羽が羽ばたく人力飛行機で空を飛ぶリトルハットマン。確かに発明ですが、飛ぶにはどこか心許ないところもあります。壮大な夢とささやかな人類の一歩の対比が味わい深いです。

 

 

166  綱渡り師

綱渡りをする男の絵です。極端に足の長い姿で綱を渡る男の先に、小さなハートがぶら下がっています。愛を求めて辿る道のりは困難なモノという意味でしょうか。

 

 

137  エコロジーの今日 水彩、色鉛筆

219  エコロジーの今日 オフセット

標識として描かれていた矢印が木に進化しました。上へ向かう矢印は木の枝と葉に、下に向かう矢印は土にはる根になっています。地球環境が悪化するリスクを前に我々の選択肢は複雑で多様になっています。

 

 

150   深い深い問題 水彩

218 グリーンピース 深い深い問題 オフセット

大海原を描いています。水平線の向こうには虹が見えますが、手前の海中を泳ぐのは魚ではなく魚雷の形をしています。このように環境問題、人権問題、戦争反対をテーマにしたポスターも多くてがけています。

 

 

210  リリー、愛しておくれ(映画のためのポスター)

広い海(湖?)の上に浮かぶ唇の形をした真っ赤なボートに乗り、櫂で漕ぐリトルハットマン。愛を求める男性の姿。フォロンの代表的なモチーフだけで構成した画面なのに、詩情豊かで、映画のイメージにピッタリとハマっています。

 


211 フォロン展 フルーブ書店ギャラリー、ボルドー

一般論ですが、色数の少ないグラフィック作品はインパクトが強い良いデザインとなります。画面いっぱいに何人もの青いリトルハットマンが並ぶ中、ひとり、赤い帽子を被ったリトルハットマンがポツンと一人。青と赤、色は少ないのに天然色に感じられます。

 


212 ユーロデザイン 1969 ナンシー

青、赤、グレー、黒 。こちらも色数が少ないポスターです。ヒョロ長い人物がS字のカタチでのけぞるように立っています。背景は真っ青なら大きな余白。グラフィックデザインのお手本のようなポスターです。

 


287 大天使

 

原画は文字のない一枚の絵です。ただし、上部の「FOLON」という文字は絵の一部です。おそらく自分の展覧会のポスターとして描いたのでしょう。要するに自画像です。自らを大天使として描くとは大胆です。

展覧会のタイトル「AGENCY OF IMAGINARY JOURNEYS  (空想旅行案内人)」はフォロンの名刺に肩書きとして入れてあるものです。


 

293  ひとり

広い平原にポツンと一人立つ男。遠くに山山がそびえ、高層の建物も見えます。すこし寂しげにも見えます。どちらかというと写実的な風景画です。通常の風景に近づいてくると、フォロンらしさが薄れて魅力が薄れる気がします。



今回の展覧会は撮影NGでした。フォロンの絵はシンプルで見やすく、色彩が綺麗なので文字で説明するのは野暮ったいです。よく言うことですが、ぜひ実物を見てほしいです。

 

 

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