フィロス・コレクション ロートレック展
時をつかむ線
SOMPO美術館
2024年7月14日(日)
ロートレック(1864年〜1901年)は短命でした。36才で亡くなりました。
貴族の出身でありながら、パリのモンマルトルに住み、キャバレなどに通いつめ、ベル・エポックと呼ばれる時代の雰囲気を切り取ったポスターやリトグラフを残しています。
今回のフィロス・コレクションからは素描が多く取り寄せられています。ロートレックの作品にとって線は大きな魅力です。だから素描を取り上げるのはとてもいい。
子供の頃に絵を学んだ先生は馬を描くのが得意だったそうで、馬の素描もありました。上手さは神童というレベルではないと思います。しかし、動いているものをとらえる訓練は、後に作品に生かされているかもしれません。
2-8 イヴェット・ギルベール
当時の人気歌手の一人。目が細く鼻筋が通った特徴的な顔立ち。肘まである長い手袋がトレードマーク。この絵はそれほどでもないですがデフォルメを効かせて描くこともよくあり、そういう絵はご本人には不評だったとのことです。ロートレックは女性を美人に描かず、絵として面白く描くことに長けた画家です。この資質はどこから生まれたのでしょう。
2-14 キャバレのアレスティド・ブリュアン(文字のせ前)
アレスティド・ブリュアンは歌手であり、キャバレのオーナーでもあったそうです。上半身の丸みをおびた形は紺のベタな面なのに立体的なボリューム感があり、とても貫禄のある人物像です。赤いマフラーが鮮烈で目を引きます。ポスターになったロートレックの代表作です。
2-16 マルセル・ランデール嬢の胸像
ロートレックにしては美人に描いています。きっと本当にすごい美人だったのか、好みのタイプだったのか、或いは両方か。多色刷りのリトグラフで、色数の多さからもロートレックがとても力を入れていたことがよくわかります。
2-21 斜め向きのランデール嬢の胸像
もう一点、ランデール嬢です。ロートレックの素描には舞台の照明が顔に下から当たっているものがいくつもあります。子供が懐中電灯を下から顔に当ててお化けのフリをするようなライティングであまり顔が魅力的に見えないと思いますが、舞台ならではの臨場感があります。素描では顔の部分の陰影は線を重ねて描いていて、対象の明暗を正確に捉えています。枠線だけで描かれたリトグラフやポスターとは違う一面が見えます。
2-39 クレオ・ド・メロード(版画集『男優と女優の肖像』)
背後から横顔を描いた女性像。黒い帽子に黒いドレス、黒いソファで、画面がベタな黒で覆われています。魔女のような妖しい雰囲気です。どんな女優なのかググったら、すごい美人でした。これはきっと役作りした後の姿でしょう。
5-15 ポニーのフィリベール
馬に乗った女性の絵です。馬がよく描けています。
若い頃はまだまだでしたが、馬の描き方も習得していたようです。
3-10『ラ・ルヴュ・ブランシェ誌』のためのポスター
雑誌のポスターです。スケートをしている女性を描いています。スケート靴は見えませんので、そのものを描いたのではなく動いている人物の面白いポーズをうまく切り抜いています。軽快な感じが洒落ていて魅力があります。
4-1 エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて
再びアレスティド・ブリュアン。こちらも貫禄があります。この衣装が板についていますね。手にしているのは杖のようですが、サーベルのようにも見え、将軍のような風格があります。T字型をした真っ赤なマフラーがとても効いています。
4-2-1 ジャヌ・アヴリル(文字のせ前)
ダンスをしている足のポーズ、顔の表情の捉え方がロートレックらしいです。最もカッコいいポーズを選ぶより、面白い形を選んでいるように見えます。これがドガならステージの踊り子はもっと素敵に描くでしょう。
弦楽器をつかむ手が絵を囲み装飾的にあしらわれているアイデアも面白いです。
4-2-2 ジャヌ・アヴリル(ポスター傑作集)
これ、いいですね。
女性のプロポーションを正確に捉えているのに、帽子とドレスのシルエットが独特でおかしな黒ベタの形をした女性に見える。奥手にニョキニョキと突き出た弦楽器の先端と指揮者の手が奇妙で目を引きます。早くのびのびとした線ではなくて、ムクムクとした動きを感じさせる線で、生々しく対象を表現しています。
ポスターの点数は多くはありませんでしたが、ロートレックらしさが感じられる展覧会でした。限られた線と色で人となりが表現出来るのが、ロートレックの上手さです。そういう魅力が堪能できると思います。
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