ブランクーシ 本質を象る

アーティゾン美術館

2024年7月7日(日)


 

展覧会の最終日の来館となりましたが、来てよかったです。

 

ブランクーシ(1876〜1957)はルーマニア生まれ。ブカレスト国立美術学校卒業し、パリに出て国立美術学校入学します。


1  プライド

 

初期の作品。ブロンズです。

当時は彫刻の巨匠、ロダンがまだ健在でした。

 


80 オーギュスト・ロダン カミーユ・クローデル

 

ブランクーシはロダンの工房で働いていたこともありますが、1年を待たずに辞めています。対象を正確にとらえ、その内面を形にしていくロダンを真似る気はなかったということでしょう。確立した形式の先に独自の美は生まれない。対象の本質とは何か。この問いかけに全く違う答えを導き出したのがブランクーシです。


 

2 苦しみ

 

心情がタイトルになっているものの、傾いた頭部は髪の毛のボリュームが薄く表面に光沢のある卵形。時系列に見ると形そのものの美しさを追求していくこの後の展開を感じさせる作品です。

 

 

4  接吻

 

フォルムを重視する以前の作品。原始時代の彫刻のようなシンプルさが強いインパクトを与えます。写実的な表現技術を使いリアルな造形をすることよりも大切なことに、この頃気づき始めたと思います。彫塑でなく、直彫りというのも大きな変化です。素材と向き合うという方向性が現れています。

 

3 眠る幼児

 

頭部だけの彫刻。それだけなら珍しくありませんが横に寝かせて置いてしまうと話は違います。人体をモノと扱っているようにも見えますが、身体はなくとも横たわる身体というイメージは内包できるという気づきが、この後の作品に応用されていきます。

 

 

7 うぶごえ 


いきなりピカピカになりました。ここに至るまでの試行錯誤となるような作品は展示されてはいなかったです。 

タイトルからすれば、赤ちゃんのはずです。あまり顔には見えないのですが、顔でしょうか。丸まった赤ちゃん身体とも違うようです。

元の形がわかるかわからない極限まで対象をシンプルにしていくのは、匙加減がむずかしい。


 

8 ミューズ 

 

確かにミューズに見えます。現実的な立体から徹底的に要素を省いていき、幾何学的形状に近づくと生物とは違うフォルムの美しさが生まれます。ピカピカに仕上げた鏡のような表面に映り込む周りの景色も美しい模様や時には表情のように意味をもってきます。

 

 

9 新生Ⅰ

 

どちらが前かよくわからない作品もあります。これは後ろから撮っています。前からみても顔には見えないし、どこが何かわからないと単なるオブジェです。完成した作品からもとのイメージを想起できるかできないかで印象は変わります。ブランクーシがどこまで具象的なニュアンスを残そうとしているのか、聞いてみたいところです。

 

 

12 眠れるミューズⅡ

 

これはわかりやすい。どう見ても顔です。逆にいうとオリジナリティが少ない。ここまでなら誰でも辿り着けますし、フォルムに元の具体的なイメージが勝ってしまっていると思います。

 

 

10 頭部

 

先ほどとは反対にこれはどこがどこだかわかりませんでした。顔には目、鼻、口、耳とありますが面になってしまったのでしょうか。ここまで来ると、完全な抽象を目指しても良さそうなものですが、その一線は越えないのも面白いところです。

 

 

82   モディリアーニ 若い農夫

 

モディリアーニが元々彫刻家だったことを最近知りました。それを知ってなぜこの顔の形にこだわるのか納得がいきました。ブランクーシとは交流があり卵型の頭部という造形に共感しあう部分があったそうです。モディリアーニにはこの平面的な人物像のむこうに三次元が見えていたはずです。

 

 

83  マルセル・デュシャン

マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの箱)シリーズB

 

撮影OKのマルセル・デュシャンの作品は珍しい気がしましたので、撮影しました。デュシャンとブランクーシは交流があり仲も良かったそうです。デュシャンはアメリカでブランクーシのために展覧会の企画もしています。

 

 

アトリエ


ブランクーシのアトリエには作品の展示もされていました。これは再現展示です。展示台にもこだわりがあり、単なる倉庫とは一線を隠したものだったようです。



 

11 若い女のトルソ

 

トルソですから女性の裸体から作り出したものですが、これは女性には見えないなあ。こういう女性は現実にいますけど。

 

 

15 若い男のトルソ

 

これは見た瞬間に男性のトルソだとわかりました。どこがそれらしかったのでしょう。下部の二股に別れた部分が尻と腿をイメージさせます。胴体はずんどうですが、筋肉質な体躯が見えるようです。

 

 

18  レダ

 

ギリシャ神話です。ゼウスが白鳥に化けてレダを誘惑して、レダは卵(?)を産み、、、云々。

彫刻の円い台座が鏡面仕上げとなっていることで、水面に浮かぶ白鳥がイメージされます。ピカピカで神々しい白鳥は神の変化(へんげ)とも見え神話らしさのある彫刻です。

 


17 魚

 

この魚をそれらしくないと思ったのは私が日本人で、おそらくブランクーシより魚を知っているからでしょう。魚ってこうじゃないと感じます。レダと違いただの魚ですし。

 

 

13 雄鶏

 

なんとなく雄の鶏に見える。どちらか頭でどちらか尾か判別できないのに、力強く屹立する雄鶏を感じます。

 

 

19   空間の鳥

 

ブランクーシの代表作にして到達点。具体的なモチーフから極限まで単純化したフォルム。この作品の主張は明らか。


鳥とは空を飛ぶものである。


翼がないのに飛翔感があります。ここまで単純化されれば、複製は容易い。この作品のすごさはこの形に辿り着いたことです。鏡のように輝く表面の加工もこの形状によって引き立ちます。鳥の本質を端的に表現しています。



今回の展覧会はとても見やすかったです。よい作品集めてコンパクトに構成されていました。動線の自由度も高く、撮影もしやすい。彫刻は360度、全方向から見せる必要があるので、そのあたりが功を奏しましたね。最終日にしては混んでいなかったのはラッキーでした。


 

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