三島喜美代―未来への記憶
練馬区立美術館
2024年6月9日(日)
三島喜美代の美術館での個展は2023年に開かれたのが初めて、練馬区立美術館は2回目だと言う。
空き缶や新聞の陶製のオブジェ作品をあちこちで見かけるポピュラーなアーティスト。90歳を越える今日まで精力的に活動し続けてきたので意外だった。もっと知られるべきだし、これから人気も右肩上がりなのは確かだろう。
9 Work-64-I
これも意外だったのだが初期の作品。コラージュ、抽象画、シルクスクリーンと当時の主流だったものにストレートに取り組んでいる。そもそも具象画を描いていて抽象画はよくわからなかったそう。始めから型破りなアーティストではなかった。
14 ヴィーナスの変貌V
抽象画は大きな作品が多くなかなか力強いと思いながら見ていると、解説に、当時本人は自分の作品には迫力がないと感じていたという。
思うにこの頃、関西では「具体」が大活躍していてインパクトのある抽象芸術が溢れていたのが理由ではないだろうか。唯一無二の個性がなくては目立たない。他人のやっていないことにしか活路はない。そういう自覚があったのだろう。
平面から立体へ、というよりこれまで誰も作ったことのないものを。新聞を陶に転写するというアイデアを思いつき、それを実現するため試行錯誤を重ねて新しい手法を編み出してゆく。薄く割れやすい焼き物の新聞という斬新なアイデアは賛否両論を起こしながら評価されていきます。
66 Work 20-T
これは陶でなく、本物の新聞を使った珍しい作品。
平成31年4月30日と、令和元年5月1日の新聞の束。生の時代の躍動感をそのまま作品化したもの。本物を使ったことが、時を経て作品を力強くしていくだろう。取扱注意の赤い札は陶製。それがなければただの古新聞で、それはそれで面白かったと思う。
38 Package '78
それにしても再現性の高さには驚かされる。若干もったりしている気がするものの、本物のビンと段ボール箱に見える。汚しがうまく、古びた崩れ方もそれらしい。
30 Film 75
21世紀生まれの若者は16mmフィルムを知らないのでは?
フィルムも記録媒体だから新聞と同じ見え方になるかというとそうでもない。新聞記事は公共のもので大量に印刷され読者数が多いので、人々の共通の記憶になっている。これはプライベートな日常の景色を撮影したフィルムを転写しているので、第三者には興味が薄い作品になると思う。
54 Work C-92
この作品、中も詰まっているんですかね。だとしたら重さは何キロなんでしょう。三島喜美代は作品を大きくすることに何のためらいもない。そんなパワフルでエネルギッシュな方には見えないのですが。どちらかと言うとリミッターが外れているタイプだと思います。
50 閉じ込められた情報B
くしゃくしゃの新聞紙をコンクリートと鉄筋で作った檻のようなものに閉じ込めた作品。タイトル通りですが、テクノロジーが更新されるにつれ過去のものは情報ですら廃棄物になり捨てられて埋もれてゆく。解釈しやすい作品です。
81 Work 22-P
三島が収集したゴミを組み合わせた作品。古新聞の記事のないものがゴミ。実際ただのゴミですし、ただのアートです。手前の新聞は三島が制作したもの。ゴミはゴミとしてぐちゃぐちゃに仕上げたかったそうですが、生花のように綺麗に整ってしまうのはアーティストの性。
55 サンキスボックス
ダンボールの作り込みが見事です。サンキストではなくてサンキス。本物に見えます。
77 Work 17-C
ゴミ箱に空き缶。接近して見ると手描きの塗りむらがわかるし、寸法も少し大きいようだと気づきますが、離れて見ると本物と区別がつかない妙なバランスで描いています。新聞と違い空き缶は本物のゴミに見えますね。
79 Work 21-G
ゴミ箱にダンボール。空き缶よりさらに再現性は高いです。美術館に展示していなければ、ただのゴミと思って通り過ぎてしまうでしょう。逆に実は本物のダンボールのゴミだったとしてもアートと思って見てしまうでしょう。結局、見る側がこの作品をアートにしているのです。
82 20世紀の記憶
展示室一面に敷き詰められた耐火ブロック。それぞれのブロックには新聞の記事が転写されています。
「情報の化石化」というコンセプトを分かりやすく作品にしています。圧倒的な物量がこれまでに氾濫した膨大な情報を体感させます。古びたひとつひとつのブロックの記事を見ると、見たこと聞いたことがある様々な出来事が写されています。今日では何もかも情報にして、もの凄い勢いで消費していきます。カタチがないものにカタチを与えることでそれが可視化されます。
83 化石になった情報 88
台車もセットで作品です。古代遺跡から発掘されたような体裁をとることで、化石感が増しています。こういう分かりやすい見せ方が得意です。
三島喜美代はインタビュー映像を見ると小柄で華奢な人物で、ガツガツとしていない飄々とした、それでも可笑し味のある関西人。
ああしたらオモロそう、こうしたらオモロそう、そんな軽そうなノリで、とんでもないものをじゃんじゃん作ってしまう。とても楽天的な性格に見えます。アーティストでは珍しいタイプではないでしょうか。100歳越えても一層のご活躍を期待します。
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