ホー・ツーニェン エージェントのA   

東京都現代美術館

2024年5月2日(木)


 

ホー・ツーニェン(何子彦)は、シンガポール生まれの中国系の現代アーティスト。

 

歴史や文化への造詣が深くインテリだと思います。日本の現代アートの展覧会や芸術祭にもしばしば出展していますので作品は見たことがありました。

 

 

時間のT:タイムピース

時間をテーマにした連作です。時間についての色々な蘊蓄を絵にしています。CGで制作した画像を液晶モニターに映し出す形式で、この展覧会では42点の映像が展示されています。ペインティングにはこだわりがないところが、現代アーティストらしいです。

 

 

この時計は、イギリスの大工ジョン・ハリソンが製作したマリンクロノメーター H-4 です。YouTube チャンネル「山田五郎のオトナの教養講座」で見たことがあったので、すぐわかりました。とてもおもしろい話でした。


ご参考まで。

 

 

 

時計の歴史は古く、日時計、水時計が初めて作られたのがいつか定かではありません。有史以来、文明国家だった中国でも古くから時計が作られていました。中国で作られた水時計は漏刻と呼ぶそうです。

 

北宋の科学者、宰相だった蘇頌(そしょう)が作った水時計、水運儀象台(すいうんぎしょうだい)は世界最初の天文時計と言われてます。かなり大きく三階建ての建物に匹敵する大きさです。当時はスーパーコンピュータのようなハイテクの機械でした。

 

 

 

放射性元素は時間の経過とともに原子核が崩壊し、減っていくことがわかっています。元素に寿命はありませんが数学的に示せる一定の確率で崩壊していきます。独立で確率的な現象は統計的には法則性があります。

 

 

 

ドップラー効果という言葉を聞いたことはあると思います。

 

近づく自動車のエンジン音は高く、

遠のく自動車のエンジン音は低く聞こえます。

近づく光源の色は青く見え、

遠のく光源の色は赤く見えます。 

 

相対性理論では移動する物体の時間は遅くなることが導かれています。

 

 

 

ヴァニタスです。この作品は元ネタがあり、フィリップ・ド・シャンパーニュの絵画の本歌取りです。静物画の1ジャンルであるヴァニタスは、16世紀から17世紀、ヨーロッパの北部を中心に描かれました。「人生の空しさ」をテーマとしています。人はいずれ老い、死ぬ。それを連想させる寓意のモチーフを写実的に描写します。写実性はCGが担保しています。

 

 

 

銅羅。静止画と思いきや、30秒間に1回叩く映像が入ります。全く変化のない静止画に動きが入るのをじっと待つ。人の時間を奪う作品です。

 

 

一頭あるいは数頭のトラ

 

 

虎にまつわるシンガポールの歴史や文化をテーマにした映像作品です。19世紀に虎に襲われたイギリスの測量士ジョージ・D・コールマンのエピソードをストーリーの中心にすえつつ、虎が人間の祖先であるという信仰や、第二次世界大戦で「マレーの虎」として名を馳せた日本の軍人山下奉文などにも触れています。

 

この作品の肝はシンガポール人にとっての「虎」。国の誕生の神話にも関わる動物で単なる野生の生き物ではないのです。解説をよく読まないと感覚的に理解するのは厳しいかもです。

 

 

ウタマ ー 歴史に現れたる名はすべて我なり

シンガポールの歴史を映像化した作品。シュリーヴィジャヤ王国の王子サン・ニラ・ウタマが、シンガポールを発見するまでの物語。ちょっとした歴史ドラマという感じです。

 

「シンガポール」の名称は、獅子を意味する「シンハ」、町を意味する「プーラ」を合わせた「シンガプーラ」(ライオンの町)に由来します。14世紀、この地に訪れたウタマが海岸でライオンを見たという言い伝えが、そのまま採用されて今に至ります。ライオンの生息地はアフリカなですのでウタマが虎を見間違えたのか、それとも政治家らしいハッタリかもしれません。この作品上では、家来があれは虎ですとご丁寧に訂正するシーンまでありました。

 

シンガポールに着くまでに海で嵐にあい、家来を守るために自らの王冠を海に捨てたりと、英雄らしいエピソードも盛り込まれています。

 

中華系、マレー系、インド系、が混在し、海外からの移民を積極的に受け入れる多民族国家にとって、シンガポールの伝説はどのように接続しているのでしょうか。

 

 

名のない人

フランスの植民地だったベトナム生まれの華僑ライ・テク(莱特)という人物を映像化した作品。とても見ごたえがありました。その理由は後で述べるとしましてライ・テクについて。


ライ・テクの表向きの顔は共産主義の活動家です。英領マラヤ(現在のマレー半島)のマラヤ共産党のメンバーとして総書記まで上り詰めました。当時世界的に共産主義による国家建設を目指す活動が活発で、ライ・テクは共産党の多くの指導者がそうであるように政敵を次々と粛清しています。


その一方で第二次世界大戦の前後にスパイとして活動していました。フランス、イギリス、日本のスパイと二重どころか三重スパイだったらしく、実像はよくわかっていません。第二次世界大戦の集結後に日本のスパイであったことが発覚。逃亡します。


このミステリアスな人物を、香港の映画スター、トニー・レオンの出演作品の映像を切り貼りして作品にしています。バイオレンス、サスペンス、人間ドラマ、複雑な国際情勢など、それっぽいシーン、セリフがふんだんにあるので、実は本当に映画化されたのではと錯覚するくらい説得力があります。もちろんライ・テクを演じる(?)のは、トニー・レオン。緊迫感のある映像が続き、見終わったあとは気が重くなる作品でした。問題があるとすれば主人公がカッコ良すぎることですかね。


このほか、シンガポールの歴史ではなく日本の近代史を扱ったVR作品もあり、情報量の多い展覧会でした。落ち着いてしっかり見れば、面白い作品ばかり。見て損はないです。



 

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