津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」/
サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」
Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展
東京都現代美術館
2024年5月3日(金)
毎年 Tokyo Contemporary Art Award 受賞者の作品展は注目しています。
このコラムでは何度か執筆を挫折という不名誉な実績のある展覧会でありますが、今回は大丈夫でした。
津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」
インスタレーションを中心にした作品を展示していました。複雑になりそうなコンセプトを徹底的にシンプルに表現している点に好感が持てます。
残念なことに撮影NGでしたので、作品の良さを説明するのが大変です。
T2 《生活の条件》
暗い展示室に畳くらいの大きさの黒い四角い枠がいくつも設置されています。一見同じに見えますが、ただの四角い枠のもの、枠の中にスクリーンがはめてあり映像を映しているもの、枠に鏡をはめ込んでいるものの3種があります。
スクリーン付きの枠には誰もいない展示室が映されていて、たまに人が通り過ぎたりします。それとは別にリアルに通り過ぎる来場者が鏡に映ったり、ただの枠の向こうを通り過ぎたり、虚像と実像が入れ替わり、見ているものを混乱に陥れる作品です。
T3 《振り返る》
細長い通路の中に黒い四角い枠が設置されています。枠には鏡がはまっているもの、スクリーンが取り付けられているものがあります。枠を通り過ぎて振り返ると、枠の中の鏡に映る自分や、枠の向こうにこちら向かって歩いてくる少し前の自分が見えたりします。
2つの作品は視覚的なトリックを通して、
そこにいた自分、いなかった自分、いたかもしれない自分。
あるいは、
そこにいた誰か、いなかった誰か、いたかもしれない誰か。
を意識させる作品です。
人生における選択肢と決断、別の可能性、過去と未来、そんなことが、頭の中をよぎります。
T4 《カメラさん、こんにちは》
キッチンルームのセットを用意し、カメラを設置。老若男女3人に何組も登場してもらい、テーブルを囲んで座ってもらいます。それぞれ座る場所を入れ替えながら撮影した作品です。カメラに対して座る位置が変わることで、それぞれ立ち居振舞いや発言に変化が生じます。
こちらは意図しているほど差異はなかったと感じました。もう少し工夫が必要なのかもしれません。
サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」
サエボーグとは?
サイボーグみたいな造語から連想できるように、人造人間、改造人間的なもの。ラテックス製のボディスーツでできた動物のような生き物です。
このサエボーグたちがさまざまなパフォーマンスを行うという作品です。
今回は展示室に入るとまずウンコ。この企画で必要なのか疑問ですが、インパクトは大です。
ウンコの先に可愛らしいお家があり、その先には円い円形のステージとそれを取り囲むように円い椅子のようなものが、配置されています。
そして円形のステージの上には犬(?)のようなサエボーグが。よく見ると悲しい表情をし、目からは涙を流しています。(私としては顔の下の空気穴というか覗き穴がどうしても気になってしまいましたが。)
この可愛い犬が何をするという訳でもないのですが、ステージの側に来場者がいると近寄って行き、悲しい目で見つめます。すると、やさしい人や犬好きの人であれば、頭をナデナデしたり、舌に手を出したりします。
これは、人の心を動かそうという作品です。ノンバーバルな方法で人の善意や感情に働きかけることはできるのか。
答えはイエスです。
私のように優しくなく犬好きでもない人間は、反応もしないですが、そのような冷たい人間にも自他の振る舞いの違いの気づきにより、己に欠けているものを悟らせるところまで考えて制作したのであれば、作者はなかなかの知恵者だと思います。
もっと来場者がすべきことをわかりやすく誘導することもできたでしょうが、それでは自発的な心の動き、行動までの心の迷い、行動を起こした後の達成感の純度が低いと考え、このさじ加減に落ち着いてような気もします。
そのあたりは、現代アートらしいです。
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